Research Abstract |
開発に必要な機材および環境については整えることができたが,設計と開発については,外部に公開できる形までには達成できなかった.その大きな要因は,2008年3月18日にリニューアル開室した第3展示室の電子コンテンツの作成業務に大半の労力がとられてしまったことにある.この電子コンテンツは,28台の情報端末に87の番組,のべ1700画面分の分量があり,7名の補助業務者と協力して1年がかりで作成を行った.常設展示のリニューアルは本館の最重要任務であり,個人研究を優先させるわけにはいかなかった.電子コンテンツの作成は,内容である展示プロジェクト委員からの原稿,協力機関等からの写真や動画の提供など,材料となるデータがそろって始めて作成にとりかかることができるが,スケジュールの都合でこれらのデータの到着が遅延し,短い時間に集中してコンテンツを作成しなければならなくなり,個人研究の時間は全く確保できなくなった.加えて,データの整理等をお願いする予定だった補助業務要員を,コンテンツ作成の作成業務にまわさざるをえなかったことも,研究を進められない理由となった. しかしながら,全く研究が進捗しなかったというわけでなく,むしろかなり貴重な体験を得た,すなわち,大量の電子コンテンツを作成するためのソフトウェアツールに求められる要求要件がかなり明晰になった.それは下記のように要約できる. 1)通常のワープロソフトのように,1つづつのコンテンツを対話的に個別に作成するツールは,大量なコンテンツを作成する場合はかえって作業の効率を悪くするということ.デザインの段階では対話的なツールは有効であるが,統一されたデザインに従ってコンテンツを作っていく時は,コマンドに従ってデータを処理するバッチ処理による作業の方が,かえって誤りなく作業をすすめられること.当初,作業者の教育の問題が懸念されたが,手順が決まれば,対話的なツールよりもバッチ処理の方が効率よく作業してもらえることもわかった. 2)コンテンツの構造をいくつかにパターン化することで,デザインのための対話ツールについても,適切なものが作成できる見通しを得たこと.第3展示室電子コンテンツの作成にあたって業者に作らせたオーサリングツールは,盛りだくさんの機能を要求した結果,操作が複雑になり,かえって作業者の教育が困難であった.これは,オーサリングツールの設計時点で,作成する電子コンテンツの構造が必ずしも明晰ではなかったことによる.しかし最終的に出来上がった80余の番組は,1)自由に見る,2)ポイントを見る,3)ストーリーで見る,4)動画を見る,の4パターンに大別することができ,利用者を混乱させない意味でも,さまざまな構造のコンテンツが混在しているよりも,定型のパターンを導入した方が,内容の理解に集中できることが確かめられた. これらの知見を踏まえて,平成20年度は集中して設計と開発と進める予定である.とくに,一般の博物館で,博物館スタッフによる情報コンテンツ作成を支援するためのツールについて,これまでの知見を生かして,実用に耐えるものを作成したい.
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