Research Abstract |
古細菌の細胞膜に存在するハロロドプシン(HR)は,光エネルギーを用いて,Cl^-イオンを代表とする一価のアニオンを,細胞外から細胞内へ輸送するポンプ蛋白質である.本課題では,その分子機構を明らかにすることを目指した研究を行った.本年度は,以下に示す成果を得た. 1.アニオン結合部位近傍の酸性及び芳香族アミノ酸残基の役割の決定 HR内部のLys残基には,発色団レチナールが,プロトン化シッフ塩基を介して結合している.基質であるアニオンは,この近傍に結合しているが,それと対称的な位置に存在する酸性アミノ酸残基,さらに,この残基と水素結合している芳香族アミノ酸残基が,輸送機能に重要であることが,前年度までの研究から明らかとなった.これらの役割を同定する目的で,各種変異体の活性測定とフラッシュフォトリシス測定を行った.その結果,これらの残基が形成する水素結合ネットワークは,L中間体の形成に重要であること.また,変異によって不完全となった水素結合ネットワークは,この付近へのもう一つのアニオンの結合によって,復活し得ることが明らかとなった. 2.アニオン輸送過程における構造変化の検出 HRは,初期状態において,1mM程度の解離定数でアニオンを結合している.光活性化後のCl^-放出時には,この解離定数が約1Mまで上昇するが,Thr218変異体,ヘリックス間を化学架橋したHRでは,上昇幅が1/5~1/10まで減少することが,前年度までの研究より明らかとなった.これらの解離定数の変化に対応するタンパク質側の構造変化を検出する目的で,高圧力下のフラッシュフォトリシス測定を行った.その結果,アニオン放出時には,蛋白質の細胞質側が開き,水分子の流入が起こること.この水分子の流入量と解離定数の上昇には良い相関があり,流入量が多いほど,解離定数の大きな上昇とアニオンの速やかな放出が起こることが明らかとなった.
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