Research Abstract |
江戸時代には,木版による数多くの浮世絵作品が出版されており,これらを体系的に識別整理することは大きな課題となっている.しかし,この中には制作年が不明なものや,専門家以外には作者の同定が難しいものも多く存在する.また,浮世絵は世界中に流通しており,海外の浮世絵のコレクターおよび研究者の数も多い.これらの,日本語や漢字に不慣れな研究者にとって,作者の判定や制作年の同定は困難な作業である. 歌舞伎役者の表情やしぐさを描いた「役者絵」は特定の役者のある年月日における特定の演目を描いた,いわば現代のポスターに相当するものであり,別途残されている歌舞伎の公演記録と対照することにより,役者絵の中の落款は,この役者絵が作られた「時代」を示す指標として考えることができる.したがって,たとえば,同じ絵師が描いた作成年の不明な数多くの美人画等の浮世絵に対して,この落款を指標として用いることにより,対象の浮世絵の作成年を同定することができる. 本研究課題では,浮世絵の落款の持っているこのような特性に着目し,落款を利用した浮世絵研究支援のための情報処理システムを作成することを目標とする.具体的には,作成年のはっきりと分かっている役者絵の落款部分を切り出して画像処理によりその特徴量を抽出し,絵師,作成年その他の属性などとともにこれをメタデータとして付与して落款画像データベースを作成する.一方,作者や作成年の不明な浮世絵から落款領域の抽出と特徴量抽出の処理を行い,特徴量間の類似性判定により,データベース中から,これと類似する落款を検索する. 本年度は,落款の文字の類似性の判定に基づき,文字の識別および絵師の識別の可能性について検討した.データサンプルはまだ少ないものの,90%程度の識別率が得られることがわかった.この研究成果は国内の研究会での発表を予定しており,また,国際会議へも論文を投稿済みである.
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