Research Abstract |
これまでの協同問題解決研究では,ペアの二人が十分な言語的な情報のやり取りをすることが可能な場面を想定して実験的な検証がなされてきたが,実際にはそのような場面ばかりで協同を行うわけではない。すなわち,言語的な情報のやり取りがまったく行えないか制限されている場面での協同も数多く存在する。本研究では,そのような場面での協同問題解決の効果を実験的に検討した。 研究1では,協同問題解決の文脈で,自分自身での課題への取り組み(以下,試行とする)と他者の取り組みの観察(以下,他者観察とする)を交互に行うことが洞察問題解決に及ぼす影響について,心理実験により検討した。具体的には,典型的な洞察課題の一つであるTパズルを使用し,(1)一人で課題に取り組む条件(個人条件),(2)20秒ごとに試行と他者観察を交互に行いながら二人で課題に取り組む条件(試行・他者観察ペア条件),そして,(3)一人で課題に取り組むが,20秒ごとに試行と自らの直前の試行の観察(以下,自己観察とする)を交互に行う条件(試行・自己観察条件)の3条件を設定し,制限時間20分間での解決成績を比較した。また,解決成績に加えて,制約の動的緩和理論(開・鈴木,1998)に基づいて,解決プロセスへの影響も検討した。その結果,試行と他者観察を交互に行うことによって,言語的なやりとりがなくても,解決を阻害する不適切な制約の緩和が促進され,結果として洞察問題解決が促進されることが明らかとなった。その一方で,試行と観察を交互に行うという手続きは共通であっても,観察対象が自分自身の直前の試行である場合には,制約の緩和を促進せず,洞察問題解決を促進することにはならないことも示された。このことから,他者の遂行を観察することが洞察問題解決を促進する上で重要なことが示唆された。 研究2では,ルール発見課題を用いて,協同して問題解決にあたるパートナーから示されるアイデアに対する評価や批判といったメタレベルの働きかけが表象変化に及ぼす影響を検討した。その結果,パートナーの思考状態を十分に吟味していれば,具体的なアイデアの提案を行わず,メタレベルの働きかけを行うだけでも,自由にやりとりのできる協同状況と同程度に,適切な方向への仮説変更を促進できることが示された。
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