Research Abstract |
株式市場の安定化を図る制度であるサーキットブレーカー制度について,人工市場実験と実務者へのインタビュー調査を組み合わせることで,市場安定化に寄与させるべき現実的なCBの制度設計を分析することが本研究の目的である。今年度は,主にU-Martという先物市場シミュレータを用いた人工市場の実験を進め,2つのテーマについて研究した。ひとつは,サーキットブレーカー制度が富(資産)の分布に対してどのような効果を持つかという点,もうひとつは,取引を行うエージェントにより市場の状態がどのように変化するかという点である。 前者に関して,サーキットブレーカー制度によって破産者の数が減少するということがわかった。さらに,ジニ係数を用いた分析により,富の分布の偏りが少なくなるというサーキットブレーカー制度の効果を確認した。破産者の増大や資産分布の偏りは,支払いの滞りや市場参加者の減少に繋がり,市場システムの不安定化要因となる。本研究の結果は,サーキットブレーカー制度がこの不安定化を取り除く効果があることを意味する。 後者に関しては,ランダムな取引を行うエージェントがある程度いることにより,約定数が大きくなることが示された。ここでランダムな取引とは,売り、買いあるいはなにもしないという注文をランダムに決定し,売り、買いの場合の価格も前の期の価格に対してある範囲でランダムに決めるというものである。他のエージェントは順張りや逆張り等,トレンドに対応する取引を行う。これは,市場にあるトレンドが形成されている場合,トレンドに対応するエージェントばかりだと取引が成立しないが,ランダム取引エージェントがトレンドとは離れた注文を出すことで取引を成立させることが可能であるためである。すなわち,ランダムエージェントの集団は,マーケットメーカーのような効果をもたらすことがわかった。
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