Research Abstract |
ATPはさまざまな酵素反応のエネルギー源として必要なだけでなく, RNAをはじめとする生体分子の構成成分として,またタンパク質のコファクターとしても働く,生物にとって最も重要な分子のひとつである。ATPはアミノ基を有しており,脱アミノ化を受けるとITPになる。ITPの構造はATPと非常に似ているため, ATPが作用する場所でATPと拮抗して競争阻害的に働く可能性がある。またITPを構成する塩基であるヒポキサンチンはアデニンと異なりシトシンと対合できるため,転写の際にITPがRNAに取込まれると,誤った翻訳をまねき,異常蛋白質が生じる原因となる。ITPaseは,ITPをIMPとピロリン酸に分解する活性をもつヌクレオチド分解酵素である。我々はこのITPaseが,細胞内でATPから生じるITPを分解除去し, ATP poolの品質を維持する働きを担っているのではないかと考え,これを確かめる目的でITPaseをコードするItpa遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製した。このITPase欠損マウスは心臓のサルコメアに構造異常があり生後2週で死亡する。このことからマウスではITPase欠損により,ITPが蓄積し,ATPと競合して生体に悪影響を及ぼしている,という仮説を立てた。 平成20年度はITPase欠損マウス系統から樹立した,Itpa(+/+),(+/-),(-/-)の3種類のItpa遺伝子型をもつ細胞株を解析,Itpa(-/-)細胞が染色体異常を示すことを示した。またヒトとマウスの遺伝子欠損体の表現型の違いを説明することができる第2のITPase活性を持つ酵素と遺伝子を同定した。マウスとヒトの両方の種において,ITPase活性は生物にとって重要な役割りを担っている可能性が高いことを示すことができた。
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