2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19652001
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
服部 健司 Gunma University, 大学院・医学系研究科, 教授 (90312884)
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Keywords | 倫理学 / 医療倫理学 / 方法論 / 文学論 / ケーススタディ |
Research Abstract |
臨床医療倫理学の本領はケーススタディにあるが、その質を高めるための方法論に関して反省的な問いかけは従来殆どなされてこなかった。本年度の研究は質の高いケーススタディに不可欠なケースの要件を尋ねることである。現代文学理論の観点からテクストとしてみなされるケースの構築をめぐる理論的考察によって明らかにされたのは、倫理原則を機械的に適用しさえすれば片が付くケース、抽象的かつ一般論的な問題がすぐさま見て取れるようなケース、ケースに出てくる人物たちの性格や付帯状況が捨象されて描かれておらず、機微に乏しいケースは不適当だということである。よいケースとは受け手の想像力を十分に刺激するケースである。こうして何故、臨床医療倫理学が、ケーススタディを通して、倫理学一般よりも文学に近づかなければならないのかが明らかにされた。 さらにケースの叙法について物語論的観点から、教科書に掲載されたケースの比較を通して、また臨床で用いられる症例報告の叙法を参照しながら検討した。一般科の症例報告はモノローグ主義的、叙述報告的、要約的であり、患者の生きざまが描かれることはない。一方、米国精神医学会の精神疾患診断・統計マニュアルが導入され普及する以前、精神科診療では、診断過程でことのほか患者の性格や生活史を重視していた。この点、医療倫理学ケースの範型として適っているように見える。しかし診断学的体系を土台とした臨床医学の症例報告の叙法を、倫理学的判断の体系が確立していない医療倫理学に用いれば、ケーススタディは単なる倫理原則の適用の例示の場でしかなくなる可能性が大きい。患者や家族の人生の価値的問題に正面から向き合うことが求められる医療倫理学ケーススタディにおいては、味わいと多声性、ドラマ性を帯びた文学的叙法がふさわしいことを明らかにした。
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Research Products
(8 results)