2008 Fiscal Year Annual Research Report
カール・ワルドマンとその構成主義的コラージュ作品に関する図像書誌学的研究
Project/Area Number |
19652009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西野 嘉章 The University of Tokyo, 総合研究博物館, 教授 (20172679)
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Keywords | アヴァンギャルド / ワルドマン / 構成主義 / コラージュ / 前衛 |
Research Abstract |
研究の目的 本研究は、1910-40年代のドイツで、まったく世に出ることなく構成主義的なコラージュを制作し続けた前衛芸術家カール・ワルドマンについて、現在までにその存在が確認されている約1,000点のコラージュ作品の要素解析・図像分析を行い、それらの編年作業を通じて、両大戦間ヨーロッパ前衛芸術運動史のなかに、この知られざる芸術家を正統に位置づけることを目的としている。本研究では、ワルドマンの生涯を資料を基に出来るかぎり正確に記述し、彼を中心として、1910年代のロシア構成主義、ベルリン・ダダ、バウハウス、さらに1920年代後半以降のソヴェト・ロシア生産主義推進、ポーランドの構成主義、あるいは同時代のフォトモンタージュ作家との関係に注目し、コラージュ作品における相関性を、具体的な作品の精細にして方法的な検証を通じて明らかにしたいと考える。 研究の成果 本年度は、カール・ワルドマンのコラージュ作品と同時代の社会状況との相関性を検証するため、『ドイツ労働新聞』(AIZ:Arbeiter-||lustrierte-Zeitung)、『国際赤旗』(lnternational Rote Hilfe)『世界の鏡』(DerWelt Spiegel)、『グラフ新報』(Das lllustrierte Blatt)、『眺望』(Vu)、『ソ連邦建設』(USSR in Construction)など、ドイツ、フランス、ソヴェトのグラフ雑誌の誌面を飾った、ジョン・ハートフィールド、ウンボ、エル・リシツキー、ハンア・ヘッヒ他のコラージュ作品との図像学的な比較を行った。その結果、カール・ワルドマンの作品は、1930年代の左翼社会主義運動のなかで生み出された、他のコラニジュ作品に較べて、ナチス・ドイツに特化された政治諷刺コラージュ、さらには人種、わけてもアジア系人種や、公衆衛生、スポーツ祭典をテーマとするコラージュに特徴が発揮されており、その点において他のコラージュ作家と一線を画していることがわかった。他方で、『ドイツ光造形』(Das Deutsche Lichtbild)、『写真年報』(Photograms of the Year)、『近代写真』(Modern Photography)、『写真』(Photographie)など、1920年代から1930年代にかけてドイツ、イギリス、アメリカ、フランスで公刊された、純粋な意味での芸術写真のあり方もまた、同時代の、社会的・政治的諷刺コラージュの存在意義を考えるさいに重要と考え、それらとの比較検討も行った。なお、昨年度からの継続課題であった、コラージュの媒材(メディウム)の組成については、作品からの分離に失敗し、思うような解析結果を得ることができなかった。
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