2008 Fiscal Year Annual Research Report
自己決定権の法構造-保護法益としての自己決定権と古典的権利論のパラダイム転換
Project/Area Number |
19653008
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉田 克己 Hokkaido University, 大学院・法学研究科, 教授 (20013021)
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Keywords | 自己決定権 / 保護法益 / 取引的不法行為 / セクシャル・ハラスメント / 人格的利益 / 人間の尊厳 / 権利論 / 秩序論 |
Research Abstract |
本年度は2年目の中間年度であり、予定通り、基礎的資料の収集と端緒的理論活動という前年度の作業を継続するとともに、年度後半にはその理論的整理活動にも取り組むようにした。 1)基本的研究課題である「仮託的保護法益としての自己決定権」の理論化作業のために、山田八千子、浅野有紀両教授を招いた研究会を開催した(2008年11月)。浅野報告においては、取引的不法行為を素材としつつ、自己決定権論が検討された。そこで提示された《自己決定権論には権利論と秩序論が混在している》という視角は、本研究を深める上で貴重なものであった。 2)副次的研究課題については、(1)前年度に続いてセクシュアル・ハラスメントやいじめ、パワー・ハラスメント関係の文献と裁判例の収集作業を行ったほか、自己決定権論の基盤となる《人格》観念の法的な位置づけについての検討を深めた。市場との関連がそこでの中心的問題意識であり、人格概念によって市場の論理を制約するという方向と、市場のもつ人格上の差異の抽象作用が人格的価値実現に寄与する方向という2つのアンビヴァレントな方向を析出した(前者について吉田克己「労働契約と人格的価値」法時80巻12号、後者について吉田克己「私人による差別の撤廃と民法学」国際人権20号掲載予定参照)。(2)また、比較法については、2009年3月にパリでベルサイユ大学ミュリエル・シャニイ教授およびパリ第13大学ムスタファ・メキ教授と面談し、競争法と取引的不法行為および人間の尊厳観念についての情報を得るとともに、意見交換を行った。 最終年度である来年度は、引き続いて基礎的資料の収集・整理を行うとともに、理論化の作業を本格的に行う予定である。その際には、自己決定権をめぐる権利論と秩序論の交錯が基本的問題意識となるであろう。
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