2008 Fiscal Year Annual Research Report
分子化石の「ノアの箱舟」:石灰質ノジュールのシェルター効果が守る古環境情報
Project/Area Number |
19654076
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
長谷川 卓 Kanazawa University, 自然システム学系, 准教授 (50272943)
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Keywords | 石灰質ノジュール / 炭素同位体比 / 硫酸還元 / 地質野外調査 / 白亜系 / メタン / バクテリア |
Research Abstract |
北海道羽幌地域の複数のセクションから得た石灰質ノジュールについて炭素・酸素同位体比を分析した(分析は高知大学海洋コア総合研究センター).その結果をクロスプロットすると,複数の領域に分かれる.先行研究から得られている底生有孔虫の値にほぼ一致するものは,堆積物表層付近に存在した海水とほぼ同じ炭素・酸素同位体比を持つ間隙水を母液として形成したと考えられる.一方,酸素同位体比は前者とほぼ同じだが,(1)炭素同位体比が底生有孔虫の値と-25‰の間にあるもの,(2)炭素同位体比が-25‰を下回り,-45‰に達するものも複数存在した.(1)は,有機物の分解(主に,堆積物中の硫酸還元バクテリアによると考えられる)により発生した二酸化炭素(有機物の炭素同位体比は-25‰程度)が間隙水に溶け込んだものに由来している.海水との一部混合により,-25‰と海水の中間的値を取るものと推察される.(2)に関しては,明らかに堆積物中でメタン生成バクテリアの活動によりメタンが形成され,そのメタンが濃集して上昇し,海底面直下の有酸素環境で酸化されてできた二酸化炭素を取り込んで形成されたものである.海水と混合が生じても,-25‰以下の値であれば,少なくとも一部はメタン由来と言える.(2)のようなノジュールは採集したノジュールの10%以上を占めており,稀なものではない.言い換えると,蝦夷堆積盆の堆積物中では,堆積の進行と平行してメタン生成が行われており,そのメタンが堆積物中を上昇し,堆積物表層付近で酸化される現象が「ありきたりな現象」として生じていたと推定できる.メタンシープでのメタン噴出についてはよく報告されているが,メタンシープの特徴を持たない,一見何の特徴もない蝦夷層群堆積物中でこのような現象が突き止められたのは,本研究が初めてである.メタン由来の炭素を取り込んだノジュールは明らかに酸素が存在する海底付近で形成された(厳密な場所の限定ができる).それこそが,海底付近の環境を解読するための「ノアの箱舟」ノジュールとして最適である可能性が高い.
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Research Products
(5 results)