Research Abstract |
クリロフ部分空間法の前処理に関する基礎研究として,サイクリック行列を乗ずることで条件数を低減するサイクリックリダクション(以下,CRと略する)の研究を開始した.連立1次方程式Ax=bの数値計算において,係数行列Aの条件数は問題の解きにくさの指標のひとつである.平成19年度は,1)まず,3項連立方程式の数値解法の1つであるCRアルゴリズムに注目し,まず,係数行列が正定値対称3重対角行列の場合に有効な条件数低減法を開発した.CRアルゴリズムでは,適切なサイクリック行列Pの導入で,作用後の係数行列はC=(1-P)Aのように表わされる.Iは単位行列.これよりC^<-1>は,C^<-1>=(A^<-1>+RA^<-1>R)/2,R=diag(1,-1,1,-1,…)と表わされ,C^<-1>はA^<-1>及びA^<-1>と同じ固有値をもつRA^<-1>Rの相加平均となる.初期係数行列Aの正定値性により,Cの条件数はAの条件数より小さいことが証明される.上述のPにおいて,直交多項式構造が見られ,Pのすべての固有値が(-1,1)に存在することがわかる.2)続いて,適切な行(列)の並べ替えを導入することで,反復適用が可能なCRを定式化した.CRによって,初期の3重対角行列Aは上,下副対角がゼロ要素の5重対角行列Cに変換されるが,適切な行(列)の並べ替えでCは2つの3重対角行列が対角に並ぶようなブロック3重対角行列に変形される.各ブロックにおいて正定値性が保たれるので,それぞれについて1)の性質が成り立ち,CRの反復的かつ完全並列な適用が可能であることがわかる.ランダムに作成した512次の正定値対称3重対角行列について数値実験を行い,CRを反復的に適用したとき,形成された小行列の条件数が反復ごとに低減する様子を検証した.なお,以上は王坦氏,岩崎雅史氏との共同研究として進めている.
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