2007 Fiscal Year Annual Research Report
微生物の適応変異誘発メカニズムと潜在能力活用に関する研究
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19658032
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新井 博之 The University of Tokyo, 大学院・農学生命科学研究科, 助教 (70291052)
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Keywords | 進化 / 適応 / 変異修復 / フェノール / 遺伝子 / 発現調節 |
Research Abstract |
Comamonas testosteroni TA441はフェノールを唯一炭素源として2〜3週間馴養することにより不可逆的にフェノール資化能を獲得する。これは、本菌は完全なフェノール分解酵素とフェノール応答転写活性化因子の遺伝子群(aph遺伝子群)を持つが、野生株では転写抑制因子AphSによりaph遺伝子群が発現抑制されており、馴養中にaphS遺伝子に突然変異が起こることで抑制が解除されるためである。本年度はaph遺伝子群の生理的役割を解明するため、野生株とaphS変異株を用い、種々の培養条件での生育とフェノール分解活性を比較した。その結果、野生株は高濃度のフェノールは分解しないが、低濃度では増殖はしないもののフェノールを分解した。aphS変異株は通常の培養条件ではフェノールで生育するが、ジャーファーメンターを用いた高通気培養では、フェノールを分解するものの増殖することができなかった。また、野生株では低濃度でaph遺伝子の転写活性のわずかな上昇が認められた。以上の結果から、TA441のフェノール分解系は、実験室環境の高フェノール濃度、高通気条件での増殖には不向きであり、自然生態系の低フェノール濃度、微好気条件での生存に適していると示唆された。このことは、TA441のフェノールヒドロキシラーゼが高い基質親和性を持つことからも裏付けられた。つまり、TA441のフェノール適応現象は、「自然界での生存に適した状態」から「実験室での増殖に適した状態」への変化であると考えられる。これらの結果は、実験室内で示す微生物の能力が、必ずしも自然界で有効とは限らないことを示しており、有用微生物を環境浄化等へ利用する際に考慮すべき新たな要素を提供した点で意義深いと考える。本年度はさらに、DNA変異修復系のMutSやDinBのフェノール適応への関与を調べるため、それらの欠損株を作製し、馴養期間の変化を調べた結果、mutS変異により適応速度が倍以上に速くなることが分かった。
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Research Products
(1 results)