Research Abstract |
本年度は,進化と学習の相互作用に関する次のモデルを構築し,実験と解析を行った. まず,凸凹した適応度地形における進化と学習の相互作用に関して知見を得るため,各個体の遺伝子間の相互作用(エピスタシス)とその適応性に正の相関を想定した多峰性の適応度関数[Suzuki and Arita2007]を用いて学習能力(表現型可塑性)の進化モデルを構築した.実験の結果,進化と学習の相互作用であるボールドウィン効果が繰り返し生じることで,集団が局所的なピークを抜け出し,より適応的な集団へと進化することが判明した[鈴木,有田2007].現在,より一般的な適応度地形における結果を含めた研究成果を論文誌に投稿中である. また,生物の生態的活動に基づく適応度地形の改変であるニッチ構築が学習に与える影響を明らかにするため,両形質の共進化を想定した人工生命モデルを構築した[野場,鈴木,有田2008].各個体は,状態が実数値で表される同一の環境に共存し,環境値との差で適応度が決まる形質の初期値に加え,学習で形質値を環境値に近づける大きさ,ニッチ構築で環境値を形質値に近づける(遠ざける)大きさを決める3つの遺伝子を持つ.各世代ですべての個体が両活動を一定回数行い,その間の適応度に基づき集団が進化するものとした.実験の結果,両活動に関する遺伝子の値が交互に増減する共進化の過程が見られ,これはニッチ構築による環境状態の安定・不安定化が学習のメリットとコストのバランスの変移を駆動するためであることが判明した. さらに,工学的応用も念頭に置き,群ロボットなどの自律分散システムが外界と相互作用することによる挙動の変移を,集団レベルでの表現型可塑性と捉え,外乱をきっかけに自己組織的な挙動を示すセルオートマトンの進化的探索を行った[岩瀬,鈴木,有田2007].その結果,外乱の発生に応じて系の挙動(セルの状態分布)が大きく切り替わるルールが発生することを確認した.
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