2008 Fiscal Year Annual Research Report
順序と位置の学習を担う神経基盤:齧歯類デグーでの検討
Project/Area Number |
19700255
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
上北 朋子 The Institute of Physical and Chemical Research, 生物言語研究チーム, 研究員 (90435628)
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Keywords | コミュニケーション / 海馬 / Octodon Degu / 文脈認知 / 物体探索 |
Research Abstract |
社会性齧歯類デグー(Octodon Degu)は豊富な音声レパートリーを有し、約20種類の音声を状況別に使い分けコミュニケーションする。適切な場面で適切な発声を行なうには、他個体との相互関係を含めた文脈の認知が必要である。学習・記憶研究において、海馬は空間・文脈認知の有力な候補であるが、高次の文脈認知を必要とするコミュニケーションにおける海馬の役割については充分明らかでない。そこで、本研究ではデグーを対象に、発声・非発声コミュニケーションに及ぼす海馬損傷の効果を2種の社会相互作用場面で検討した。 社会相互作用場面1では、同ゲージ内で飼育された馴染みのある同性個体(♂)とのコミュ、ニケーションについて、接触、対他的毛繕い、喧嘩、添い寝の頻度(または時間)を海馬損傷手術の前後で比較した。海馬損傷はイボテン酸の海馬内多点投与により行った。海馬損傷群では、馴染個体との再会において接触頻度が増加し、その結果として喧嘩が増加した。コントロール群では、再会試行の前半に接触頻度が増加したが、後半には対他的毛繕いや添い寝など親和行動が増加した。社会相互作用場面2として、新奇な雌に対する求愛行動を海馬損傷手術の前後で比較した。海馬損傷個体では求愛開始時に特徴的な導入行動が欠落し、機能の異なる音が求愛歌中に出現した。この他、4つの異なる物体を探索させる物体認知課題において、海馬損傷群は位置の変化した物体に対する探索の増加を示さず、新奇な物体に対する探索量は増加した。また、固定物体に対する探索量は徐々に減少した。従って、海馬損傷により空間認知は障害されたが、固定物体に対する馴化や新奇な物体の認知は正常であった。 これらの結果は、海馬は空間認知のみならず、コミュニケーションにおける適切な反応の選択、すなわち文脈の認知に関与している可能性を示唆した。
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