Research Abstract |
グラム陽性細菌の細胞壁ペプチドグリカンを加水分解する酵素群の種類について調べた. Layecらはそれらの酵素群をペプチドグリカン上において触媒作用がある位置に基づき, 5つ(1. N-acetylmuramoyl-L-alanine amidase, 2. Carboxypeptidase, 3. Endopeptidase, 4. N-acetylglucosaminidase, 5.N-acetylmuramidase)に分類し, さらに, それらの酵素群がもつドメインの種類の分類を行なった(Research in Microbiology, 159, (2008), 507-515). そこで, これらのドメインをもつタンパク質を, ヒト腸管内, シロアリ腸管内など15種のメタゲノムデータのタンパク質群の中から探索した. その結果, 酵素の種類の分布は, 同じ環境でもサンプリングされた場所によって異なる場合もあったが, 異なる環境間でも共通に見られる場合もあった. 一方, 立体構造が既知な酵素に対する基質結合シミュレーションによって, 基質と相互作用するアミノ酸残基を推定することを試みた. そのために, 触媒反応が古くから調べられているペプチドグリカンの糖鎖を加水分解するニワトリ型リゾチームに近縁であるが, 触媒反応や相互作用するアミノ酸残基が殆ど明らかにされていないグース型リゾチームの立体構造に対して, N-acetyl-D-glucosamineの6量体を基質として結合させるシミュレーションを行った. これまでにグース型リゾチームにおいて, 基質と相互作用すると推定されていたアミノ酸残基は7個であったが, 基質結合シミュレーションの結果, 相互作用するアミノ酸残基は24個と推定することができた. また, 基質との複合体の立体構造を推定した結果, グース型リゾチームはアノマー反転型の反応機構をもち, 糖転移反応を触媒しない原因の一つとしては基質結合部位の幅が狭いため, アクセプター分子の結合が不利になることが推測された. この結果より, メタゲノム解析によりアミノ酸配列が明らかにされた酵素について, その立体構造と機能を予測することができれば, 基質結合シミュレーションによって, 酵素反応に重要なアミノ酸残基や触媒反応を立体構造の情報を元に推定できるようになることが期待される.
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