Research Abstract |
本課題の目標は、海馬の広域神経回路の解析によって, 脳深部刺激法など精神疾患の新たな治療法を導入するための基盤を確立することである. 本年度は電気痙攣刺激を用いたうつ病治療モデルマウスを使用し, 以下の研究を行った. (実験内容) マウスに単回電気痙攣刺激, もしくは反復電気痙攣刺激(1日1回, 連続8日間)を与え, それぞれ22時間, 1週間の生存期間の後に灌流固定した. 免疫蛍光染色法により, 海馬でGABA合成酵素isofbrm(GAD65 and/or GAD67)を発現しているGABAニューロンを同定し, オプティカルダイセクター法を用いて空間分布密度の解析を行った. (結果) 1. GABAニューロン全体(GAD65, GAD67のいずれか, もしくは両方を発現しているニューロン)の海馬における空間分布密度は, 単回, 反復いずれの電気痙攣刺激を与えた場合でも, ほとんど変化しなかった. 2. GAD67を発現しているGABAニューロンの密度は, 歯状回門で単回刺激と反復刺激によって有意に減少した. 3. GAD65を発現しているGABAニューロンの密度は, CA1の網状分子・放線層では反復刺激によって有意に増加した. 一方で, CA3の網状分子・放線層では単回刺激によって有意に減少した. 4. これらの結果から, 海馬のGABAニューロンにおけるGAD65, GAD67の発現率を計算した. 反復刺激を与えた場合, CA1の網状分子・放線層や歯状回の分子層におけるGAD65の発現率は有意に増加していた. これらの層は嗅内皮質から海馬への主要な興奮性入力を受けることが知られている. その一方で, GAD67の発現率は単回刺激によって, CA3の網状分子・放線層で有意に減少していた. この層は, 青斑核からノルアドレナリン性の入力を受けている. (考察と意義) GADの発現率の増減はGABAニューロンの機能を変化させると考えられる. 本研究の結果は, 海馬の広域神経回路特異的に生じるGABAニューロンの機能的な変化が, うつ病の治療基盤に関与している可能性を示唆している.
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