2008 Fiscal Year Annual Research Report
心因性勃起障害を引き起こす脳・脊髄内神経回路網の変化とその分子基盤
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19700319
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
坂本 浩隆 Kyoto Prefectural University of Medicine, 医学研究科, 助教 (20363971)
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Keywords | ストレス / 心因性勃起障害 / 神経解剖 / PTSD / うつ病 / 腰髄 / ガストリン放出ペプチド / ラット |
Research Abstract |
ガストリン放出ペプチド(GRP)は29アミノ酸からなる神経ペプチドで、中枢神経系に広く分布し、概日リズム、摂食行動、情動反応など、多くの生理現象に関与することが知られている。一方、雄性性機能を司る神経ネットワークは、脳と脊髄の多くの部位から構成される。ラット腰髄を局所破壊すると反射性勃起が消失することから、腰髄には雄性性機能に重要な中継核が存在することが知られているが、その分子・神経基盤についてはいまだ不明な点が多い。最近我々は、GRPの発現が雌に比べ、雄ラットの腰髄に有意に高いことを新規に見いだした(Sakamoto et.al., Nature Neuroscience 2008 11 634-636)。ラット脊髄のGRPニューロンは、腰髄L3-4付近に存在し、腰髄のL5-6に位置する勃起や射精をつかさどる自律神経核にまで軸索を到達させ、脊髄内に複雑な神経ネットワークを構築することにより、雄性性機能を調節しているものと考えられる。本研究では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に伴う心因性勃起障害(ED)の中枢性病態生理を明らかにする目的で、PTSDモデルラットとして学際的に認められている短期持続ストレス(single-prolonged stress ; SPS)を用いて解析を行った。SPS暴露は、腰髄におけるこのGRPの発現を減少させた。さらに、SPS負荷ラットへのGRPアゴニスト投与は、減弱した勃起能を濃度依存的に回復させた。一方、SPS負荷後の血中テストステロン濃度はコントロール群と比べて有意な差はみられなかったが、腰髄におけるアンドロゲン受容体の発現量がSPS負荷群で有意に減少していた。我々は、腰髄のGRPニューロンがアンドロゲン受容体を豊富に発現していることを既に報告しており(Sakamoto et.al., Endocrinology2009 in press)、過剰なストレス負荷による腰髄のアンドロゲン受容体発現の減少が、GRP発現の減少を引き起こすものと考えられた(Sakamoto et.al., PLoS ONE 2009 4, e4276)。以上の結果、過剰なストレス負荷が腰髄GRP系を破綻させることにより、雄性性機能低下を惹起するものと考えられた。今後、腰髄GRP系を解析することにより、心因性勃起障害に対する新規治療法の開発が期待できる。
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