Research Abstract |
本年度は,β刺激薬誘導肥大心モデルについて,エネルギー学的な解析を進め,リン酸化ホスホランバン抗体を用いた解析を進め,肥大心ではホスホランバンのリン酸化の抑制が観察され,心筋細胞内カルシウム動態の異常が示唆された。そこで心筋細胞内カルシウム動態を解析するために,ラット心筋スライス標本を用いての細胞内カルシウム濃度解析システムを立ち上げた。 心筋細胞内のイオン動態の計測は,単離心筋細胞を用いる方法が一般的である。しかし,単離心筋細胞は細胞を単離する過程でコラゲナーゼなどの酵素により細胞外マトリックスを除去しており,臓器としての心臓とは異なるイオン環境におかれている可能性がある。また,ある細胞が異常な興奮を起こした場合に,その興奮が隣接する心筋細胞への伝達の評価ができない。肥大心モデルでは隣接細胞との相互作用についても評価する必要があるため,本研究の材料としては不適である。摘出心では,上記のような細胞間の興奮波の伝播についての解析は問題ないものの,カルシウム感受性発光タンパクェクオリンの導入は特殊な技術を要し,失敗の可能性が高く,蛍光カルシウム指示薬を導入するには高価な蛍光カルシウム指示薬を大量に灌流液に加える必要があり,経済的に難しい。また,心室壁の最外層の心筋細胞についての評価しかできない点も問題である。 上記のような理由から,心筋組織標本を用いるのが妥当であると考えられる。心筋の組織標本は右心室あるいは左心室の乳頭筋を用いる方法が一般的であるが,乳頭筋は心室本来の機能であるポンプ作用とは異なる役割を担う。そこで,本研究では心室筋のスライス標本を用いての解析方法を確立し,Fluo-3をロードすることにより,30〜40分間は安定した蛍光カルシウムイメージングが可能であることを確認した。
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