Research Abstract |
本研究では, 視覚情報が利用できない条件でも, より正確に空間を移動できる歩行方略を検討するため, 視覚情報を一時的に遮断した状況下での歩行中の空間認識, および歩行動作特性について検討した. 先行研究によれば, 歩行中に視覚情報が利用できず, 記憶を頼りに障害物をまたぐ課題(回避課題), 障害物位置の認識の正確性が非常に低く, 障害物に到達する手前で回避動作を開始してしまう(Patla & Greig, 2006). これに対して障害物があると思う位置で立ち止まる課題(到達課題)では, 障害物の位置の認識が正確であるという報告がある(Andre & Rogers, 2006). 本研究では,このような矛盾した結果となった原因を探るため, 様々な歩行条件を統一した上で, 2つの課題間の成績を比較した. その結果, 到達課題のほうが有意に認識が正確であったが, その差は非常にわずかであった. 従って, 2つの課題特性によって障害物位置の認識が大きく異なるというよりは, むしろ比較的類似した結果であると結論づけられた. 到達課題において障害物位置の認識の正確性が低かった参加者を対象に, その障害物回避動作の特性を検討した結果, 障害物直前の歩幅は小さく, かっ歩行速度が遅くなることがわかった. 位置の認識が不正確な参加者は, このような歩幅や速度の変化を十分に考慮できていないため, 障害物に届かない位置で, 回避動作を開始してしまうものと考えられる. 従って, 視覚情報が利用できない状況では, たとえば認識上の障害物位置よりも1歩先に障害物があるものとして歩行するといった方略が有効かもしれない.
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