Research Abstract |
平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では,地震時の交通混乱や水利不足のため消防効果を発揮できず広域火災に発展した。現在でも,殆どの都市が木造密集地帯を抱えており,かつ地震発生度の高い都市が多いため広域火災の危険性が少なくない。このような状況下において空中からの消火活動,とりわけ滑走路が不要で空中停止できるヘリコプターからの空中散布水は非常に有効な消火手段である。しかしながら気象条件や地形特性などの自然環境,および火災規模や延焼速度などの火災状況に対応した最適な散布方法,投下位置,投下水量などは未だ明確にされていない。 これまで研究代表者は,複数の送風機と振動翼をアクティブに制御し種々の気象条件を再現できる形式のアクティブ制御乱流風洞の開発を行ってきた。そこで,本風洞を用いて種々の気象条件に対する最適な水散布条件の基礎資料を提供できるものと考え本研究に着手した。 平成11年11月に大分市にて行われた自治省消防研究所(当時)主催の実大規模実験「市街地火災時における空中消化の延焼防止効果に関する研究」に共同研究者として応募者も参加した。本実験にて,実規模における消防ヘリコプターからの散布水性状,散布水の地表面における衝撃度,延焼防止効果等についての基礎データが得られたが,更なるデータを得るためには広大な場所や莫大な予算を必要とするため,以後実大規模実験は行われていない。 そこで,実規模実験より容易にしかも同等の結果が得られる小規模な模型装置を提案し,実規模実験との相似性を検討するための研究を行った。本研究は,平成13年度および14年度の科学研究費補助金(奨励Aおよび若手B,課題番号13780378)より資金援助を受けている。本研究にて模型ヘリコプターを用いたダウンウォッシュ中における投下物の挙動について支配されている物理法則を明らかにし,実規模実験との相似性を明らかにした。また,数値解析ソフトを用いて数値シミュレーションを行い,空中投下物の挙動について実規模実験および模型実験と比較することで相似則の妥当性が検証できた。その後,平成15年度より16年度にかけて文部科学省在外研究員として米国コロラド州立大学にて新型アクティブ制御乱流風洞と従来型境界層乱流風洞の乱流特性に関する研究を行っていたため本研究は中断していた。 しかし近年の大規模地震に対する防災意識の高まりを受け,大規模広域火災時の空中投下水散布性状に関する研究を発展させる計画である。明らかとなった相似法則に基づいた模型を用いて,アクティブ制御乱流風洞中にて種々の気象条件を再現し,変動する気流が空中投下水の挙動に与える影響について調べる。また,気象条件による投下水の粒径の変化と地表面への衝撃度の関係について明らかにし,散布水性状を明らかにする。さらに,火災を模擬した火炎中に空中より水を投下することで消火の効果および延焼防止効果について調べ,最適な空中投下水散布条件を提案する。本研究により実大規模実験における多大な費用,実験場所,時間と人員等の制約を受けることなく,空中消火に関する基礎資料を提供できるものと期待できる。
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