2008 Fiscal Year Annual Research Report
女性由来組織をめぐるポリティクスとジェンダー-女性の痛みとリスクに焦点をあてて-
Project/Area Number |
19710219
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
日比野 由利 Kanazawa University, 医学系, 助教 (40362008)
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Keywords | 卵子提供 / 資源化 / ES細胞 |
Research Abstract |
ヒト卵子の操作を伴う治療・研究が広がりを見せている。女性身体の資源化・商品化が三層進むのではないかという懸念が広がっている。一方、卵子を提供する女性の存在は不可視化されがちである。このような問題意識から、本年度は、米国の不妊治療ドナー女性に関する調査、韓国ES細胞研究における卵子受給の問題、「無償ボランティア」をめぐる日本の審議会での議論を手掛かりとして、女性身体利用の問題点を考察した。来国で行われた不妊治療における卵子ドナーの調査からは、疫学バイアスにより提供のネガティヴな側面が過小評価されている可能性があることが明らかになった。またその結果、「中産階級の心理的にも社会的にも健全な女性が愛他的な動機から提供しており、金銭的報酬ではなく、提供という行為自体から大きな満足を得ている」というドナー像の産出に貢献している可能性が,あることが明らかとなった。研究論文のねつ造が明らかになった韓国では、元教授に対する熱烈な支持者による自発的な卵子提供が多数行われたとされる。だが、研究のために卵子を提供した女性たちを元教授は「聖女」(ソンニョ)と持ち上げたことに現れているように、男性による過剰な女性賛美は、男性優位社会に置かれた女性の立場につけ込むものであるとも考えられた。韓国の現象は、儒教社会における女性の地位やナショナリズムの問題を併せて解釈する必要性がある。日本の審議会では、難病患者家族からの提供を認めてほしいとの主張がなされた。この発言には、母親(女性)の自己犠牲を当然視するジェンダー・バイアスがあることが判明した。また、ボランティア提供のリスクはそれほど高いものではないとする産婦人科医師の発言も見出された。本年度の研究成果を踏まえ、今後、女性の身体をとりまく権力構造の存在によって、提供を自発的同意とみなすような物語(=美談)が生成されていく危険性がないかどうか、常に検証していく必要性がある。
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Research Products
(2 results)