2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19720006
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
稲垣 諭 Toyo University, 文学部, 助教 (80449256)
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Keywords | 現象学 / リハビリテーション / 探究プログラム / 中枢神経系障害 |
Research Abstract |
リハビリ医療を現象学的観点から構想し直すためには、人間を、脳、身体、意識といった三つのシステムからなる複合連動系として理解する必要があり、この複合連合系の探求と治療がリハビリの課1題となる。複合連動系を取り扱うさいの困難な点は、それぞれのシステムの影響関係を厳密に予測できないことにある。例えば脳システムの障害が、必ずしも意識システムの変異を起こさないのと同様、意識システムの障害が、身体の行為能力の損傷を引き起こさない場合さえある。とすれば、脳障害による病理的診断が、必ずしも患者の意識経験の病理と一致することはなく、その溝を埋める現象学的な観察が不可欠になる。そこで20年度は、現象学的探究を、脳神経科学や認知科学といった経験諸科学と無理なく接合し、それら成果を存分に活用できるようなプログラムとして設定する試みを行った。その際重要な点は、現象学的探究を統制するコアの設定以上に、仮説的記述の吟味の仕方を模索することであった。精密科学に基づく経験科学の探究成果を吟味するコードは、「真偽」という二分法コードであるが、現象学的な探究の場合、そもそも真偽という言明が成立する以前の認識基盤や、歴史的、実存的、体験行為的な基盤へと探究のまなざしを届かせようとするのであるから、そうしたコードが単純に妥当しないのは自明である。むしろ既存の経験可能性の幅に変動を起こし、そこに探究領域を開くことだけが、プログラムの前進を保証する。それゆえ仮説的記述の吟味コードも明証的、実証的な「真/偽」ではなく、経験可能性の「拡張/維持」、その「成功/失敗」という実践的コードとして前景化する。こうした吟味基準を明確にした探究プログラムの設定は、今後、リハビリ医療にかかわるさいに、自らの現象学的記述を展開させるためにも不可欠な要請となる。
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Research Products
(1 results)