2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19720010
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
松崎 哲之 Tokiwa University, 人間科学部, 専任講師 (40364484)
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Keywords | 浙東 / 礼学 / 宗法 / 萬斯大 |
Research Abstract |
本研究は、清代の浙東学者萬斯大の思想の淵源を探求するために行われた。当初、彼の著書『学春秋随筆』を探求の入り口としたため、まずは、宋代の春秋学からの系譜をたどるべく、宋代春秋学についての基礎的研究を実施することを計画立てた。しかし、研究を進めるうちに、彼の学問は、当時の浙東地方の重大な問題であった家族問題を根本に置いていることが判明した。 当時、科挙制度は浸透し、士大夫層は生活を維持するために、科挙合格者を輩出する必要があった。優秀な人物を家族から出すためには、より多くの家族の構成員が求められた。そこで、家族を団結し、代々維持し続けるためのシステムの構築が求められていた。それが宗法制度であった。宋から清の浙東地方では宗法制度の確立が重要な問題であったのである。萬斯大の学問もその延長線上にあった。 そこで、視点を春秋学から、礼学、特に宗法制度に変更し、研究を進めることにした。宗法制度の淵源から、宋代の宗法制度の諸問題、萬斯大に至るまでの過程を追い、彼の宗法理論の根底を検討した。彼は著書『學禮質疑』の中で、暦法、皇帝の天の祭祀(郊祀)、皇帝の祖先祭祀(〓給)、そして宗法について議論をする。それらは、それぞれ礼学の重要問題であり、これまでの礼学研究ではそれぞれ別個の問題として扱われてきた。しかし、それを一つの有機体として視ることによって、萬斯大の著作の意図が判明した。つまり、彼は、暦、郊祀、〓、宗法と一つの理念によって貫いて解釈する。その理論は天である。士大夫の宗法制度の理念的根拠を天として、より強固な家族維持のための理論を構築したのである。このように浙東地方は家族の維持が重要な問題であり、家族維持のために、祖先祭祀に重要な機能を持たせていた。この儀礼は、実は日本にも伝来し、その影響は現代にも色濃く残る。日本の家の確立にも、浙東地方の宗法解釈とそれに関する儀礼が重大な影響を及ぼしているはずである。日本の家族制度確立について今後の課題としたい。
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