2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19720044
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Research Institution | Otani Womens University |
Principal Investigator |
横田 隆志 Otani Womens University, 文学部, 准教授 (90403211)
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Keywords | 中世文学 / 長谷寺験記 / 南都 |
Research Abstract |
本年度は、前田育徳会尊経閣文庫及び国立公文書館内閣文庫における調査を重点的に行った。 前田育徳会尊経閣文庫は国宝・重要文化財をはじめとする数多くの古典籍を所蔵する著名な文庫であり、そのコレクションには本研究題目と関わる重要典籍も含まれている。そのうち従来ほとんど未調査だった『長谷寺験記』の古写本を調査できたことは本研究計画実施にとって重要であり、長谷観音伝承の形成と展開を知る上で基礎的かつ重要な知見を得ることができた。また国立公文書館内閣文庫では、南都の観音伝承に関わる古典籍調査を実施した。 本年度は以上に記した調査等を通じて、長谷観音伝承の収集と目録化を行うための基礎作業を行うとともに、『長谷寺験記』の成立年代や長谷寺の鎮守神である天神の信仰について、台湾大学での国際シンポジウムや日本文学協会の全国大会で学会発表を行い、それらの研究成果を論文化した。 特に『長谷寺験記』の成立年代については、従来、数十年にわたり鎌倉初期成立と理解されてきた。そして本書を通じ研究者が当該期の説話伝承の流布や宗教思想のありようを論じるさいにも、『長谷寺験記』鎌倉初期成立説が前提となってきた。しかし『長谷寺験記』の本文を精読すれば、鎌倉初期成立とは言えない内部徴証が認められ、その成立年代は十三世紀後半以降にまで引き下げることが妥当であることが判明した。この研究成果は、今後『長谷寺験記』を対象として中世の説話伝承や宗教思想の展開を論じる上での基礎的な知見を学界に提供したものとして意義があると考えている。 なお本研究計画の実施を通じ収集した資料及び知見は、平成22年度科学研究費補助金・基盤研究(C)「中世南都観音伝承の形成と展開に関する総合的研究」(課題番号22520212)で発展的に継承する予定である。
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Research Products
(4 results)