2009 Fiscal Year Annual Research Report
博物誌から国家史へ:18世紀末から19世紀のアメリカにおける歴史記述
Project/Area Number |
19720064
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Research Institution | Kochi Women's University |
Principal Investigator |
山口 善成 Kochi Women's University, 文化学部, 准教授 (60364139)
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Keywords | 英米文学 / 文学一般 / アメリカ史 / 歴史記述 / 博物誌 |
Research Abstract |
過去2年間の研究成果を踏まえ、平成21年度は18世紀末から19世紀アメリカにおける歴史記述について、全体的な見取り図となるような議論を行った。18世紀末、新旧両大陸での革命を経て、それまで公にされてこなかった文書が次々と明るみに出てくるようになる。ピューリタンによる予型論的な歴史観からの脱却を試みる当時の歴史家たちが基礎を置いたのは、そのような大量の史料だった。予型論の歴史にとっては新しい史料が発見されたとしても、それはあらかじめ規定された聖なる物語を確証づけるものでしかなかったが、18世紀末以降の歴史家たちはそれを新たな一般化(物語化)の可能性をひめた「証拠」として見なすようになる。この時期に現れ始めた"documentary history"のジャンルに見られるように、史料の収集と「事実」へのこだわりはアメリカ歴史記述の主たる特徴となった。 史料が集まったら次なる問題は、いかにそれらを一つの物語へと統合するかということである。あるいは、個々の史料に見られる「事実」やエピソードはどれほど典型的なのか、どれほど特殊なのか、という問題である。「個」の特殊性と典型性は、とりわけ個の自由を旗印に建設されたアメリカ社会そのものに密接な関係を持つ問題だった。論文"The Elasticity of the Individual : Early American Historiography and Emerson's Philosophy of History"では、歴史記述と社会全体の両面における「個」の問題についてRalph Waldo Emersonの歴史思想を題材に概説した。 「個」に対するこだわりは、科学(Francis Bacon以降の近代帰納科学)への志向でもある。当時の歴史家たちはことある毎に「歴史=科学」の図式を提示した。この傾向は20世紀初頭、Henry Adamsの熱力学第2法則を援用した歴史観へと結実する(そして終焉する)。論文"Toward the Impersonality of History : Science and Inductive Reasoning in 19th-Century American Historiography"はアメリカ歴史記述の科学志向について論考したものである。この考察についてはまだ論じきれていない箇所があるので、これを完成することが平成22年度の最初の課題になる。
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Research Products
(3 results)