2007 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末ジャーナリズムにおけるテロリズム表象と初期モダニズム小説における影響
Project/Area Number |
19720071
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
伊藤 正範 Kwansei Gakuin University, 商学部, 准教授 (10322976)
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Keywords | ジャーナリズム / テロリズム / モダニズム / ジョーゼフ・コンラッド |
Research Abstract |
19世紀末のイギリスにおいて急成長したジャーナリズムが、初期モダニズム小説に及ぼした影響を検証する本研究は、その初年度の活動として、ジャーナリズム関連の一次資料の収集(国内所蔵のない資料についてはイギリスの大英図書館において収集)と、その分析に専念した。収集資料の対象としては、主に1880年代から90年代にかけてのイギリス国内、およびヨーロッパにおけるテロリズム事件を報じる新聞記事と、アナーキズム、社会主義などに関連する論説記事に的を絞った。また、当時のジャーナリズムについての二次的研究資料も収集し、過去の研究成果に基づく研究態勢を整えた。 一次資料の分析の結果明らかになったのは、印刷技術や電信技術の発達により即時性や視覚性を急速に増していったジャーナリズムと、ダイナマイトの発明を契機に出現したテロリズムという新時代の脅威とが、高い親和性をもって結びついていった当時の状況である。そして、さらなる精査の結果、そうしたニュー・ジャーナリズムとも称される(今日のインターネットにもあたるべき)当時の革新的な情報伝達テクノロジーが、Dickens以前の小説が担っていたメディアとしての社会的役割を吸収しながら、急速に勢力を拡大していった状況が明らかになってきた。 そうした分析結果と、一例としてJoseph ConradのThe Secret Agentをつきあわせてみると、そこには当時の二大言語メディアとしての小説とジャーナリズムの対立が、明確に現れていることが見えてくる。(これまで見落とされてきた要素であるが、実際にテクストでは随所において新聞記事の引用が登場し、しばしば語りの共感的な声とせめぎ合う。)それは、伝統的な、しかしジャンルの勃興期よりジャーナリズム的な要素を多分に抱えていた小説が、技術革新を後ろ盾に急成長してきたニュー・ジャーナリズムという新たな「言語」を目の前にして、自らの差異化を図りながらも、新しいあり方を模索するプロセスともとれる。それがモダニズムという大きな文学的潮流に接続していくことは疑いを容れない。このように、モダニズムの起源を、小説という言語が直面した「アイデンティティ危機」に見出していくという、先例のない議論への糸口をつかむことができたのが、本年度の最大の成果である。
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