2008 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末ジャーナリズムにおけるテロリズム表象と初期モダニズム小説における影響
Project/Area Number |
19720071
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
伊藤 正範 Kwansei Gakuin University, 商学部, 准教授 (10322976)
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Keywords | ジャーナリズム / テロリズム / モダニズム / ジョーゼフ・コンラッド / H. G. ウェルズ |
Research Abstract |
研究年度の二年目に当たる本年度は、昨年度に引き続きジャーナリズム関連の一次資料の収集・分析に当たるとともに、本格的な小説テクストの分析・理論化に着手した。 具体的には、Joseph Conrad, The Nigger of the "Narcissus"とH. G. Wells, The Invisible Manの登場人物に、当時のジャーナリズムを介して流通していたテロリストの表象を見出すとともに、両者の相違点を手がかりにモダニスト/アーティストとしてのConradと、リアリスト/ジャーナリストとしてのWellsを比較分析した。急成長するジャーナリズムの言語が小説に侵入してくる時代において、その語りがどのように変質していったのか、あるいはどのようにその独自性を維持していったのかについて、独自の議論を構築することができた。成果は、口頭発表するとともに、論文「『見えない』テロリスト、『見える』テロリスト--The Invisible ManとThe Nigger of the "Narcissus"における退化者の可視性」として、すでに査読誌に投稿済みである。 同時に、Conrad, The Secret Agentにおける人間性を媒介する声の不在と、新聞記事の多用とに着目し、伝統的な小説の語りとジャーナリズムとのせめぎ合いについての議論を構築した。研究開始当初は、席巻するジャーナリズム的言語を差別化するために、小説が独自の言語を創出していく可能性を探ろうと試みていたが、さまざまな一次資料の分析に加え、テクストの精査を重ねたところ、小説の語りがむしろジャーナリズム的言語を内部に取り込み、変形させることで、欠落した人間的な声を補完している可能性に行き当たった。これは本年度の最大の成果であり、初期モダニズムの発生についての従来の議論に新たな光を投じるものとなろう。成果は、論文"The Newspaper in the Pocket : Journalism and the Language of Fiction in The Secret Agent(仮)として発表予定である。
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