2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19720105
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮地 朝子 Nagoya University, 文学研究科, 准教授 (10335086)
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Keywords | 形式名詞 / 文法化 / とりたて / 非存在文 / 助詞 / ホカ / ダケ |
Research Abstract |
前年度に続き、形式名詞の助詞化を中心にデータの収集整理を進めるとともに、文法化の推進力・抑止力となる条件・制約について考察した。 ダケ・ホカの分析からは、歴史地理的に多様な諸用法は名詞句の多様性として把握することができ、ダケ・ホカともに「指示詞+形式名詞」という指示の曖昧性の生じる環境の重要性や、叙述名詞化、値名詞化といった名詞句としての機能拡大が文法化のプロセスそのものであることが認められた。このような変化の過程は、名詞句の文法的意味機能の多様性を前提とした、名詞にとって類型的な変化といえる一方、例えばダケの場合、人間の背丈や髪などの長さの尺度のみ表すという制限の解除に「ありたけ」の段階が重要な役割を果たすなど固有の側面も認められる。また変化の様相が一般的な現象か個別的な現象かの見極めにおいては、中央語と地方語の言語接触や、対立する語彙項目の影響が捨象できないことも明らかとなった。 構造的側面に関しては、助詞化した形式名詞の多くが構成する「とりたて句」について「叙述」の主語位置とみる分析を提示した。日本語の基盤的構造の一つとして、主語句と述語句が構造的に姉妹関係をなす叙述構造を提案することは、名詞句の付加句から主語句への再分析による文法化の構造的根拠の仮説的提示となる。叙述の一つとしての(非)存在文が文法化の環境となる蓋然性も指摘できる。 以上の知見は、前年度までに得た仮説や把握に基づいた構造史的研究の可能性を確認する一方、新たな方針のもと問題を設定する必要性も示した。すなわち形式名詞の文法化は、名詞の形式化・文法化としてとらえ直し、形式化以前の語彙項目として持つ個別の要因と、類型的一般的要因の両面を峻別しながらの分析の必要である。最終年度前年度申請により基盤研究(C)の研究課題「名詞の形式化・文法化にみる日本語の構文構造史」として継続して取り組んでいく。
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