2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19720106
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
浅田 健太朗 Shimane University, 法文学部, 准教授 (50346045)
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Keywords | 国語学 / 言語学 / 仏教学 / 音声学 |
Research Abstract |
漢語声明について、浅田健太朗(2004)「漢字音における後位モーラの独立性について-仏教声楽譜から見た日本語の音節構造の推移-」(『音声研究』第8巻第2号35-45頁)で行った調査に本研究期間中に収集した資料を加え、調査を行った。その結果、次のことが明らかとなった。 ・ どの資料においても、促音は撥音・長音と比べておおむね低い独立率を示す。撥音と長音については、明示的な差はないが、わずかに長音の独立率が高い資料が多い。 ・ 独立率の時代による変化についてみると、明示的な差はないが、院政・鎌倉時代写の資料の長音・撥音の独立率は低い。促音については一資料の例外を除き、総体的な変化はあまりないと見てよい。 また和語声明に関して『東寺観智院蔵祭文東寺潅頂院仁和寺観音院』を調査したところ、促音便では「ムカツタマシ(向)」「トツテ(問)」、撥音便では「ツシンデ(欽)」「オロソカンスル(疎)」等の例を見出すことができた。これらの例において撥音便と促音便に付される節博士を比べてみると、撥音便は仮名「ン」の横に節博士が付けられているのに対して、促音便の例における「ツ」の横には節博士が付されていない。この資料では、ほぼ全ての仮名に対して節博士が付され、省略されることがなく、促音便は無表記の場合が多いが、ツが表記された場合はいずれも節博士が付与されない。したがってこの「ツ」に節博士がついていないというのは偶然ではなく、恐らく、和語の世界でも促音が音程を付与しにくい存在であったことを意味するのではないかと考えたい。 さらに、声明譜に現れる注記「中音」の使用実態を観察し、室町時代の写本から現れること、例がほぼすべてア段音+ウであることから、長音の開合に関連して、開音の発音を注記しているものと推定した。
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