Research Abstract |
本研究では,英語中級レベルの日本人大学生を対象に,マルチモーダル音声対話データベースを構築し,共同注意の観点から,英語学習者と英語母語話者の発話におけるグラウンディングの成立過程と言語使用について比較を行った.その結果,英語学習者のペアは,英語母語話者のペアと同様に,情報交換による積み上げ型のコミュニケーションを行っていたのに対し,英語学習者と英語母語話者のペアでは,英語母語話者が圧倒的に優位で,談話の場を独占していることが分かった.このことから共同注意を中心に,指向性を一致させ,協調的に対話を遂行しようとする態度は,対等な参与者関係に支えられていることが示された.会話分析と実験心理学の手法を援用して,このようなグラウンディング成立における語用論的要因について論じた点は学術的意義がある.また,言語表現に関しては,共同注意対象を示すための英語母語話者に頻出する表現が,英語学習者には全く出現していないことが分かった.例えば,英語母語話者の発話には,共同注意を確立させるために移動動詞が頻繁に使用されていた.このような表現上の差異は,日英語の表現を支えている認知的な捉え方(construal)に基づくものであり,日本語の表現構造が,英語学習者の英語の言い回しに影響を与え,不自然さを生み出していると考えることができる.英語学習者の不自然な英語の言い回しは既に多くの文献で指摘されており,文法レベルでの研究は進んでいるが,談話レベル,特に,対話にみられる不自然な表現がなぜ出現するのかに関する体系だった研究は本格的にはなされておらず,貴重な成果として位置づけられる.今後は,各言語で好まれる表現というものを支えている認知的なものの捉え方について議論を深めるための,対照言語的視点をふまえた定量的分析が課題である。
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