2007 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア帝国とギリシャ・近東正教聖地との関係の総合研究
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19720190
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
志田 恭子 Hokkaido University, スラブ研究センター, 学術研究員 (60431350)
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Keywords | ロシア史 / アフリカ史 |
Research Abstract |
本年度は、ロシア帝国の対エジプト宗教政策を研究課題としていたが、史料不足のため、来年度に予定していたロシア正教会とエチオピア正教会との関係の分析を開始した。調査はロシア軍事史文書館(モスクワ)で実施。 エチオピアはアフリカ最古のキリスト教国であり、異端とされる単性論派教会を奉じている。19世紀末のアフリカ分割の時代に、列強の脅威にさらされたエチオピアはロシア帝国に支援を求めた。ロシアはこの機会を利用して、同じ東方正教の一派である「黒人の宗教的同胞」エチオピア人との教会合同(事実上の併合)に乗り出すが、教義の不一致(ロシア教会は両性論派)等の理由で、合同は結局実現しなかった。 通常英語圏の研究者は、この教会合同の失敗のみをもって両国の宗教関係の希薄さを強調する傾向にあるが、実際には、聖地エルサレムではロシア教会とエチオピア教会が同盟を結び、コプト派やギリシャ人聖職者に対抗したことを示すロシア語史料が見つかっている。よって、両国の宗教関係は希薄だったというよりも、利害が一致したときには協力し合うプラグマティックな性格だった可能性が高い。ロシア語文献を駆使したこの問題の解明は、これまでロシアとアフリカの研究の融合を妨げてきた言語的障壁を埋めることになる。またロシア研究の分野においては、単性論派教会(他にアルメニア教会、シリア教会等)全般に対するロシアの戦略を総合的に理解する一助となる。 すでにスラブ研究センターでの報告において初めてエチオピア史研究者を討論者に迎えるなど、ロシア研究とアフリカ研究との共同作業を開始した。またこの研究成果をアフリカ研究の学術雑誌に公表することで、ロシア史研究の側からのアフリカ史研究への貢献を目指す。
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