2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19720191
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
戸渡 文子 Osaka University, 文学研究科, 助教 (30432529)
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Keywords | 国際情報交換 / 西洋史学 / イギリス / 世代関係 / 老人史 |
Research Abstract |
初年度にあたる平成19年度は、イギリスに10日間滞在し、英国国立図書館(British Library)において、1830年代以降のイングランド国教会の教区で福祉活動に関与した女性に関連する史料の調査と収集を実施した。これらの史料とは、教区聖職者の妻のための手引書や、教区訪問員の手引書、教区女性補佐員を対象とする定期刊物等である。上記の史料を分析した結果、教区においてボランディアとして主に家庭訪問活動に従事した中産階級女性や、教区の福祉活動の調整や統括を担うようになった聖職者の妻や娘たちは、同時代の老齢および老人にかかわる議論に活発に参加していたことが明らかになった。19世紀イギリスの社会福祉をめぐる議論においては、「貧民」とみなされたグループについて、成人と老人との区別なく、厳しい管理と統制の対象にして、経済的自立を促すべきであるとする意見が優勢であった。しかしながら、教区で活動する女性たちの多くは、老人は成人とは異なって「救済するに値する人びと」であり、手厚い保護が必要であるとの意見を主張した。教区において老齢貧民の保護を自らの役割と認識した女性たちのなかには、ルイザ・トワイニングのように、1850年代、60年代にいたって、救貧法施設であるワークハウス訪問へと活動の場を広げ、施設内での老人の扱いの改善を訴える者もいた。このように、中産階級女性は、19世紀イギリスにおける老齢と老人をめぐる議論において、重要な役割を果たしたといえるのである。従来の関連分野研究のなかで、女性の役割を重視した研究はほとんど行われていない。この研究成果は、雑誌論文としての発表にはまだ至っていないが、2007年12月にロンドン大学歴史学研究所に提出した博士論文のなかの一章を、この研究成果についての叙述に充てた。
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