2007 Fiscal Year Annual Research Report
中世初期イングランドにおける地域社会の形成-ミッドランドの社会経済ネットワークー
Project/Area Number |
19720193
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
森 貴子 Ehime University, 教育学部, 講師 (10346661)
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Keywords | 西洋史 / 中世史 / イングランド / 都市=農村関係 |
Research Abstract |
本研究は,アングロ・サクソン期農村社会の形成と変容を、人や物の結び付きとそれが創りだしていく「地域」に着目して、長期的かつ包括的に追究するものである。 この目的を達成するために、2007年度は、都市=農村関係に焦点を絞って考察を進めた。具体的には、10世紀以降のウスター司教座関連文書に登場する、司教座集落ウスターと農村とがリンクした型の所領に注目し、その結合の性格と意味を追跡した。考古資料、文書、ドゥームズデイ・ブックなど、現時点で利用可能な資史料を総動員して分析を進めた結果、明らかとなったのは以下の諸点である。1,ウスターでは、司教座創設当初から、王権の保護を受けつつ司教座主導で中心地機能の強化が押し進められていた。2,宗教、経済、防備など複数の中心地機能が漸次的に蓄積された結果として、10世紀以降には都市住民の顕著な増加も確認できるが、その中で農村領主が都市内に屋敷地を有する、いわゆる都市=農村リンク型所領が散見されるようになった。3,ここから、ウスターの都市的機能が農村経済に重要な役割を果たしていたと結論できる。近年の荘園制研究では所領の自己完結的性格を強調する立場が有力であるが、本考察は、むしろ具体的な地域ネットワークの解明こそが必要かつ有益であることを、ウスターと周辺農村との関係から例証するものである。この成果は、「アングロ・サクソン期ウスターの都市的発展と司教座-所領経済の解明に向けて-」『西洋史学論集』45(2007年)として発表した。 また、史料の限定された中世初期について研究を進めていく上で、史料に対する深い理解と新しい解釈の必要性を痛感したため、史料論研究の手法に着目しつつ先行研究を整理した。その過程で、文書集成=Cartularyに関する優れた業績を取り上げ、書評を執筆している。
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