2008 Fiscal Year Annual Research Report
中世初期イングランドにおける地域社会の形成-ミッドランドの社会経済ネットワーク-
Project/Area Number |
19720193
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
森 貴子 Ehime University, 教育学部, 准教授 (10346661)
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Keywords | 西洋史 / 中世史 / イングランド / 文書 / 社会経済 / 史料論 |
Research Abstract |
本研究は, イングランド中世初期社会の形成と変容を、人や物の結び付きとそれが創りだしていく「地域」に着目して、長期的かつ包括的に追究するものである。 2008年度は、文書史料を新たな視角から利用するための準備作業として, まず大陸学界の動向に目を向けた。比較の観点から浮かび上がったのは, 紀元千年封建革命説をめぐる大陸学界の議論で焦点の一つとされているノティス型の文書が, イングランドにおいても9世紀以降に登場していること, それにもかかわらず, イギリス学界においてはこうした類型に注目した考察がなお本格的に進められていないこと, 以上の二点であった。これらを受けて出発点として, 文書の変動と社会の変化という視角からノティス型文書に着目することの可能性を見出すとともに, 文書類型論の必要性を確認した(この作業は「私文書研究の動向とその可能性」として発表している)。 その上で実際にノティス型文書にざっと目を通してみた結果, これがたびたびキログラフ(割印証書)として作成され, 当事者間のみならず第三者による保持を前提としていたことが判明した。この点は, 本研究課題にとって特に重要と思われる。文書に記された取り決めが実行される際, その保証人として指名された第三者は, 行為当事者たちといかなる関係を持つ人物であり, 具体的にどのような役割を果たしていたのか。ノティス型文書が登場した背景を探るとともに, 文書をめぐる人的ネットワークを解明することで, 「地域社会」形成過程にアプローチするという, 新たな課題を設定することができた。 また, 日本学界におけるイギリス中世史研究の動向を整理して, 最近の史料論的手法から優れた成果が生みだされていることを指摘した(「2007年の歴史学界ヨーロッパ中世イギリス」)が, この作業によって, 文書史料の新たな視角からの再検討という本研究のアプローチが持つ可能性を, 確信することができた。
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