2010 Fiscal Year Annual Research Report
15世紀の聖地巡礼記に見る十字軍観・イスラーム観―記憶と経験―
Project/Area Number |
19720196
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
櫻井 康人 東北学院大学, 文学部, 准教授 (60382652)
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Keywords | 西洋史 / 中世史 / 十字軍 / 聖地巡礼 / イスラーム |
Research Abstract |
かつて研究代表者は、14世紀に時期を限定した上で聖地巡礼記を網羅的に分析し、そこから十字軍観、およびイスラーム・ムスリム観を探ってきたが、本研究は、これまでの行ってきた研究をさらに発展・深化させるために、15世紀に作成された聖地巡礼記を網羅的に分析し、そこから十字軍観・イスラーム観に関する情報を抽出し、その情報を聖地巡礼記全体の文脈で問い直すことを目的とする。この目的を達成するために、旅行記を内容および人称に基づいて網羅的に分析した上で5つの系統((1)メモワール、(2)旅行書、(3)創作、(4)聖地巡礼記、(5)巡礼ガイド)に分類し、聖地巡礼記およびその補助的史料として巡礼ガイドに検討対象を限定する。それぞれの作品について、作者の出身地・出自・旅程などの基本情報を整理した上で、各作品から十字軍観(過去の十字軍に対する記憶・追憶的記述、および経験としての聖地の現状に対する感情)やイスラーム観(クルアーンやムハンマドに関する情報をどのように伝えようとしているのか、および経験を通じてのムスリムに対する感情の変化の有無)に関する情報を抽出する、という研究手法をとる。本年度はセバスティアン・ブラントの作品(1490年作成)からイェハン・ド・ジュベク(1499年作成)までの作品を検討対象とした。考察の結果、ヴェネツィアとオスマン=トルコとの戦争の一時終結により、安全な聖地巡礼が確保されると、聖地巡礼者たちの心の中において再び「十字軍熱」が冷却していく傾向が見られることが確認された。
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