Research Abstract |
西アジアは,農耕・牧畜を基盤とした生業がユーラシア大陸ではじめて成立した地域である。今日,世界中の多くの地域で,この地で成立した生業が生活の根幹となっていることを考えると,農耕・牧畜の成立過程を探る研究は,人類史・環境史の視点からきわめて重要である。この初期農耕経済は核地域の周辺へ拡がったことが知られているが,その拡散の過程についてはまだ十分に解明されていない。技術・情報が伝播していったのか,大規模な人の移動(移民)によるものだったのか,初期農耕経済の拡散の実態を明らかにしていくことはこれからの課題である。本研究は,核地域であるシリアと西アジアの周縁に位置するトランスコーカサスの考古学資料(石器)を研究対象として,初期農耕経済がどのように拡がり,そして受容されていったのか,その過程を明らかにすることを目的とする。平成19年度の研究では,アルメニア・フランス隊の発掘したアルメニアの3遺跡(ザフカホビット,クチャック,ゲガロット)の石器資料の分析を行った。今回の分析結果と,これまでに蓄積してきたデータをあわせて考察すると,現在のところ,以下のような仮説が立てられる。アルメニアへの初期農耕経済の到達は,紀元前6000年ごろ,農耕・牧畜という新しい生業様式をもった集団が移住してきたことによってもたらされた。しかし,同時に依然として狩猟採集を続ける集団も存在し,両集団が共存する期間がかなりあったことも推定される。アルメニアにおける初期農耕経済の受容は,複雑な様相であったと考えられる。こうした仮説は,今後,様々なデータにより検証していく必要がある。
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