2009 Fiscal Year Annual Research Report
西アジア・トランスコーカサスにおける初期農耕経済の受容過程に関する考古学研究
Project/Area Number |
19720207
|
Research Institution | National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo |
Principal Investigator |
有村 誠 National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo, 文化遺産国際協力センター, 特別研究員 (90450212)
|
Keywords | トランスコーカサス / 先史時代 / 農耕・牧畜の起源 / アルメニア |
Research Abstract |
2009年秋に、アルメニア北西部の岩陰遺跡であるカムロ2遺跡の再発掘を行った。その結果、カムロ2遺跡の文化層は異なる2つの居住時期に分かれることが推測された。すなわち、旧石器時代末の居住(前12000~10000年)と、中石器時代または無土器新石器時代の居住(前9000~8000年)である。出土遺物は、黒曜石製石器と動物骨がほとんどであった。動物骨には、野生のウシが多く含まれている。従来の考察通り、カムロ2遺跡は短期間に居住された狩猟用のキャンプであったと思われる。これまでの3年間の調査を通じてトランスコーカサスにおける農耕経済の受容過程に関して明らかになった成果と課題は次のとおりである。 1. トランスコーカサスにおける初期農耕のはじまり 現在のところ、アルメニアにおける最古の農耕文化は、前6千年紀にアララト平野に出現したシュラベリ・ショムテペ文化である。一方、シュラベリ・ショムテペ文化の遺跡とは異なる、狩猟民(または遊牧民)が残したと考えられる遺跡が、アラガツ山周辺で確認された(カムロ2、クチャック、ゲガロット、ザフカホビット)。これら高地の遺跡と低地のシュラベリ・ショムテペ文化の遺跡との関連は、今後明らかにしなければならない問題である。 2. 西アジアからトランスコーカサスへの農耕牧畜経済の伝播説の検討 従来、西アジアからトランスコーカサスへの農耕牧畜の伝播が主張されてきたが、実際の考古学的証拠には、西アジアからの文化伝播を示すものがほとんどない。よって、西アジアからの大規模な農耕牧畜民の移民によって農耕牧畜がもたらされた可能性は、今のところ考えにくい。トランスコーカサスで独自に農耕牧畜が始まった可能性も今後は検討しなければならないだろう。
|