2008 Fiscal Year Annual Research Report
現代中国の観光における漢字イデオロギーに関する人類学的研究
Project/Area Number |
19720229
|
Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
高山 陽子 Asia University, 国際関係学部, 講師 (20447147)
|
Keywords | 文化人類学 / 観光研究 / 中国モニュメント |
Research Abstract |
平成20年度は、ロンドンと西安・延安・北京のモニュメントに関する調査を行った。調査の視点は、西洋の芸術様式が20世紀の中国の芸術様式に与えた影響が、モニュメント建設に見られるのかという点である。 第一次世界大戦後のヨーロッパでは、従来のオベリスク型モニュメントや騎馬像にかわって、ロンドンのセノタフのような、非宗教的で簡素なデザインのモニュメントが建立された。一方で、全体主義が台頭するにつれて、かつての芸術は「退廃芸術」と称され、国家掲揚のための作品が多く作られた。ナチの芸術様式は、1934年に始まる社会主義リアリズムの成立に大きな影響を与えた。 20世紀の中国では、北京大学総長の蔡元培によって、西洋美術の製作および教育が導入され、多くの若い芸術家たちがヨーロッパへ留学した。その結果、1930年代には、西洋美術を学ぶ高等機関が各地に設置された。人間の身体を立体的に描くことを試みた若い芸術家たちは、油絵や彫刻に着目した。この時代には、ソ連から社会主義リアリズムが文学理論として輸入され、思想を重視した作品が多く作られた。 西洋とソ連の造形芸術が輸入され、1950年代以降、各地にモニュメントが建立されていったものの、漢字の優位性が揺らぐことはなかった。共産党幹部や革命烈士の銅像には必ず碑文が付けられ、除幕式典には政治家が出席し、揮毫する場面がニュースで伝えられている。著名な政治家や文人の題字の前で記念撮影するのは、観光客の決まりごとでもある。このように、様々な社会変化を経ても、中国において漢字イデオロギーが続けていることがわかる(「社会主義リアリズムの系譜-近代中国におけるモニュメントを中心に」『国際関係紀要』第18巻1・2合併号、2009年)。
|