2007 Fiscal Year Annual Research Report
社会保険制度の現代的意義:私保険に関する法的分析を通して
Project/Area Number |
19730048
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
笠木 映里 Kyushu University, 大学院・法学研究院, 准教授 (30361455)
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Keywords | 社会保険 / 私保険 / 医療保険 |
Research Abstract |
研究計画の1年目である本年においては、大きく分けて以下の二つの研究活動をおこなった。 (1)過去数年にわたり研究を行い、本研究の関心の基礎となった「公的医療保険の給付範囲」というテーマについて、論文の連載を完結し、これをもとに単著を出版した。こうした作業を通じて、本研究の問題意識を改めて明確化し、分析視覚について示唆を得ると共に、本研究に関連性を有する国内の研究について理解を整理することができた。論文公表、単著出版を通じて得られた示唆は、本研究との関係では、おおむね以下のようなものである。すなわち、フランス・ドイツでは共通して、公的医療保険の給付範囲をこれまでよりも厳格に決定・制限しようとする議論が登場している。もっとも、両国においてこのような議論は、必ずしも医療の市場を自由化し、大幅に民間保険市場に委ねようという方向には進んでおらず、安全で有効な医療は基本的に公的医療保険制度によってカバーすることを前提として、この安全性や有効性を医学的観点から従来よりも正確かつ厳密にチェックすることを目指すような議論となっている。また、フランスの私保険はきわめて特殊な法規制の下におかれており、私保険と社会保険の中間的な性格を有することも明らかになった。以上のことからすれば、両国の私保険は医療分野で役割を拡大しつっあり、また今後もこうした傾向は続くと思われるものの、こうした動きは単なる「自由化」や「規制緩和」の方向に向かうものになるとは限らないと考えられる。 (2)社会保険及び私保険に関するドイツ・フランスの資料の収集を行った。特に、本年はフランスの医療分野の動向に注目し、フランス医療制度の近年の動向・制度改革について研究論文を発表した。また、フランスの医療分野で活動する特殊な私保険については、2008年1月に現地調査を行い、パリ市内の保険会社や共済組合を訪問し、インタビューや資料収集を実施した。こうした調査活動を通じて、フランスにおける共済組合の特殊な地位・性格を確認することができた。一方、日本で研究するのみでは明確にはわからなかった点として、こうした共済組合の独自性が、近年では、EU統合や経済のグローバル化を通じて困難な状況におかれつつあることも具体的に知ることができた。
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