2008 Fiscal Year Annual Research Report
現代型過失犯罪に対する刑事法上の対応に関する比較法的研究
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19730054
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
古川 伸彦 Nagoya University, 大学院・法学研究科, 准教授 (00334293)
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Keywords | 刑事法学 / 刑法 / 犯罪論 / 過失犯 / 客観的帰属論 / 被害者の自己危殆化 / 国際情報交換 / ドイツ |
Research Abstract |
本年度もドイツにおける在外研究を継続し、現代的な刑事過失論に重大な影響を与えている客観的帰属論(die Lehre von der objektiven Zurechnung)の展開を分析しつつ、我が国の判例・学説状況と比較することによって、その意義を探究する作業に従事した。また、客員研究員として所属するハイデルベルク大学における講義・演習等への参加を通じて、学問的見識を深めた。くわえて、ドイツの他大学・研究機関を訪問しての研究者との情報交換や、国際刑法学会若手部会(2008年4月、於 : テュービンゲン)・南ドイツ=スイス刑事学会(2008年7月、於 : フライブルク)・ドイツ少年裁判所=少年審判補助者適合(DVJJ)バーデン=ヴュルテンベルク部会(2008年10月、於 : シュヴェービッシュ=グミュンド)等の学会・シンポジウムに出席しての研究者との意見交換等、在外研究のメリットを十分に活用できた。その成果の一部は、とくに「被害者の自己危殆化行為の介在」ゆえに行為者の刑事過失責任の限界が問題となる事案類型の一つとされている「救助事故」に焦点を当てて、ハイデルベルク大学のMarsilius-Kolleg主催の学際シンポジウム(2009年2月)およびInstitut fur Kriminologie主催のコロキウム(2009年3月)において研究発表を行い、意見を収集する機会を得た。この問題は、現にドイツの学説上、上記の客観的帰属論と関連して重要な役割を果たしており、実務上も最近、2008年2月20日のシュトゥットガルト地方裁判所決定(NJW 2008, S. 1971. ff. )において、被告人による失火行為後に消火活動に従事した消防隊員が事故死した場合、被告人が過失致死罪の責任も負うか、という形で争点となったが、我が国においては議論の蓄積が未だ乏しく、理論的にも実際的にも大きな意義をもつ。
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