2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19730057
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
塩谷 毅 Okayama University, 大学院・社会文化科学研究科, 准教授 (60325074)
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Keywords | 刑事法学 / 被害者 / 自己答責性 / 治療行為 / 医事刑法 |
Research Abstract |
今年度は、治療行為における被害者の自己答責性の意義について検討した。医師による手術などの治療行為は、客観的にみたとき患者の身体的利益を増進するものであるという特殊性を持っており、純然たる法益侵害とは異なった側面があるといわれている。この治療行為の正当化根拠について、以前は正当業務行為(35条)であるとする見解が有力だったが、近年は患者の自己決定を強調する見解が有力になっている。両説の相違は、患者の意思に基づかない専断的治療行為の評価において顕著に表れることになる。正当業務行為説は、患者の同意がなくても医師が治療目的で行う治療は正当業務行為として正当化されるとするが、患者の同意説は、専断的治療行為は特別な場合を除き傷害罪に当たるとするのである。基本的に、患者の同意説の方向性に正しい核心があり、この解釈論的構成の中で被害者の自己答責性が有する意義を明確にすべきであると思われた。その際、メスで体を切るなど治療侵襲そのものに対する被害者の承諾以外に、手術などの失敗のリスクや投薬の副作用の危険に関して、あり得るとは思っていたが大丈夫だろうと考え最終的にはその可能性を心の内で打ち消して手術の実行を許したという被害者態度を「危険引受け」という法概念において捉え、その観点から理論を再構成し、その領域における被害者の自己答責性を考慮していくべきであると考えられる。今後は、その要件などを事案の特殊性を考慮しながら検討し、理論を精緻化していきたいと考えている。 なお、今年は、被害者の自己答責性と危険引受けの概念をもう一度再検討するために、この領域の基礎的研究も行った。その成果は、刑法の争点において「危険の引受け」と題して公表した。
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