2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19730057
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
塩谷 毅 Okayama University, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (60325074)
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Keywords | 刑事法学 / 被害者 / 自己答責性 / 医事刑法 / 終末期医療 |
Research Abstract |
今年度は、終末期医療、すなわち安楽死や尊厳死との関連で被害者の自己答責性が有する意義について検討した。近年の延命医療技術の進展に伴い、従来からの「安楽死」から、今日では「尊厳死」へ問題の重要性が移ってきている。そこで、自分の生命の終焉について、被害者(患者)が自分の責任でもって死を決断したということを、積極的にあるいは消極的に生命の終結を援助した行為者の処罰との関連で刑法上はどのように評価すべきなのかを詳細に検討した。我が国では、オランダなどのように安楽死を合法化する法律は存在しないが、判例では安楽死が問題になったときに安楽死を正当化する要件が提案されてきた。まず、脳溢血で倒れ激痛を訴える被害者の父に対して、被告人が殺虫剤入りの牛乳を飲ませて殺害した事案では、6要件を満たした場合に安楽死は正当化しうるとされた。ここでは、意思表示の要件は、可能であればある方が望ましいという程度の要件にすぎなかった。これに対して、被告人が、ガンで余命数日の患者に、その長男や妻の要請に従って塩化カリウム製剤を注射して殺害した事案では、4要件を満たした場合に安楽死は正当化されるとされた。この判決では、意思表示について、積極的安楽死の場合は明示のものが要求された。明示の意思表示を要件にすれば、意識不明状態の患者に対する安楽死を正当化する可能性を奪うとする批判もあるが、この問題領域における被害者の意思並びに自己答責性の重要度からすれば、この要件は必要不可欠のものといえるであろう。今後は、この領域における被害者の自己答責性の具体的要件などをさらに検討し、理論を精緻化していきたいと考えている。なお、今年は、被害者の意思の問題と、安楽死などが問題になる生命・身体に対する罪について広く考察するために、この領域の基礎的研究も行った。その成果は、ハイブリッド刑法総論、同各論において公表した。
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