2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19730057
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
塩谷 毅 Okayama University, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (60325074)
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Keywords | 被害者 / 承諾 / 自己答責性 / 刑事法 |
Research Abstract |
今年は、生殖医療や遺伝子の問題などにおける自己答責的な自己決定の意義について検討を行った。まず、伝統的な堕胎罪と人工妊娠中絶の問題について、日本の現状では、堕胎のほとんどが母体保護法による正当化でまかなわれてしまっており、人工妊娠中絶の95%程度が社会経済的理由による母体の健康への危険を理由としたもので、しかもそれを判断するのは指定医師であって実質上のチェックは皆無という状況なので運用上の濫用が懸念されている。女性(母親)の「生まない自由」という意味での自己決定、プライヴァシーの問題というとらえ方もあるが、堕胎罪の法益はまずもって胎児の生命であることからすると、単純に妊婦の自己答責的な自己決定の問題とは言い難い側面があるので、慎重な議論が必要になると思われた。つぎに、遺伝子と法的規制の問題について、特に医学的な遺伝子研究とインフォームド・コンセントの法理の関係について検討した。この領域では、医師の説明義務の問題とともに、研究実施前提供試料の活用に関する包括的同意の問題が重要であると考えられる。採取時(前回の研究時)の同意の取り方、説明の仕方と、今回の研究目的が前回の研究目的とどういう関係にあるかなどから同意内容にも十分注意した同意の有効性判断が必要になると思われる。今後は、その他の先端医療と法的規制の問題についても考察を進めていく予定である。なお、今年は、生殖医療や遺伝子の法的規制の問題の根幹にある「有効な同意」の前提となる十分な情報の提供という観点から、医師の説明義務に関して、ドイツにおいて有力な「仮定的同意」の問題の研究も行った。その成果は、立命館法学327・328号に「被害者の仮定的同意について」と題する論文として公表した。
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