2009 Fiscal Year Annual Research Report
中国環境訴訟の研究:司法過程に見られる被害救済の阻害要因について
Project/Area Number |
19730092
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
櫻井 次郎 Nagoya University, 大学院・国際開発研究科, 助教 (40362222)
|
Keywords | 環境訴訟 / 環境法 / 中国 / 環境政策 / 国際協力 |
Research Abstract |
本研究の目的は、中国の環境訴訟における被害救済の阻害要因について、訴訟準備段階から判決の執行に至る過程を対象として検討し明らかにすることにある。最終年にたる本年は、2005年に汚染の差止と損害賠償を認容する最終判決が出された福建省寧徳市のケースについて、判決後の現地状況の追跡調査を実施した。同地域では、訴訟により差止め命令が出ているにもかかわらず、工場からの汚染排出は続いているばかりでなく、工場の拡張計画についてもすでに政府の認可が下りて拡張工事が始まっていた。また、上海市近郊の工場から排出される粉塵および騒音被害について、現地住民がこの工場内の生産設備の拡張の許可をめぐり上海市環境保護局を訴えた行政訴訟をめぐり、現地の被害者から訴状および判決などの訴訟資料を収集するとともに被害状況に関するインタビューを行った。さらに、武漢市で複数の環境訴訟の代理人を務めている弁護士へのヒアリングおよび汚染現場の視察を行った。当該弁護士が担当した環境訴訟は全て湖沼の水質汚濁に伴う漁業被害をめぐるものであったが、一方で武漢市から180kmほどの鉱山周辺では健康被害が出ており、被害者から当該弁護士に訴訟に関する相談も寄せられており、今後の環境訴訟の新たな展開も感じられた。 これらの環境訴訟に関する調査および資料分析を通じて、中国の環境訴訟については、特に因果関係の証明責任において原告側の負担を軽減ずる法的措置がとられており、これが実際の裁判にも影響を与えているという新たな動向が明らかになった。しかし、他方で、汚染被害者が環境訴訟を通じて救済されるには社会的、政治的問題が山積していることも明らかとなっだ。ここで明ちかとなった問題については、現在執筆中の中国の環境ガバナンスをめぐる書籍においてできる限り早期に公開したいと考えている。
|