2007 Fiscal Year Annual Research Report
中国国有企業の経営目的関数と雇用調整関数の推定:状態空間モデルによる計量経済分析
Project/Area Number |
19730160
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
橋口 善浩 Kobe University, 国際協力研究科, 助教 (40432554)
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Keywords | 中国 / 国有企業改革 / 経営目的関数 / 一般化最小二乗法(GMM) |
Research Abstract |
本研究の目的は,中国の国有企業改革が功奏さなかった原因を計量経済学の手法を用いて実証的に明らかにすることである.具体的には,同企業の経営目的関数と雇用調整関数を推定し,パラメータの変化から経営不振の原因を分析する.19年度は主に前者の推定を行った.その成果は以下のとおりである. 国有企業の企業行動を複合的な経営目的関数(雇用の拡大,従業員の収入増大,利潤増大)から定式化し,計量経済学的な分析が可能なモデルを導出した.そして,1952年から2001年までの中国国有企業のデータを使って,企業の行動目的を左右するパラメータの経年変化をGMM推定した. 複合的経営目的関数の計量分析に関する既存研究では,理論モデルと計算もデルに乖離があり,目的関数のパラメータを推定する形になっておらず,また,変動の多い移行経済の問題を扱いながらもパラメータの変化を考慮していないなどの問題があった.そこで本研究は,目的関数のパラメータが推定できる計量モデルを構築し,かつ,逐次的なGMM推定をすることでパラメータの可変性を考慮し,既存研究の発展を試みた. 推定の結果,国有企業改革が本格化した1980年代半ばから92年にかけて,経営目的の1つである「従業員の収入増大」の重要性を表すパラメータに増大傾向が見られた.経営目的の重心が,相対的に「従業員の収入増大」を優先する方向へとシフトしたといえる結果となった. 中国国有企業の経営に関する既存の記述的な研究では,同企業の経営不振について,インサイダーコントロールの問題が指摘されている.すなわち,インセンティブ制度の導入により利潤と労働報酬が強く結びうき,経営目的が企業内部者の利益,とくに従業員の収入増大へと過度に傾斜したことが,同企業の業績悪化に寄与したという議論である.推定結果はそうした議論を支持する形となった。
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