Research Abstract |
家計における家事負担割合は多くの国で妻が夫より高い.このような状況下で,仕事を持つ妻はどのようにして余暇時間を確保するだろうか.これに対しては仕事時間を削除する方法と,通勤時間を削除する方法が考えられる.本研究では後者の方法に着目し,正社員の妻が賃金の変化に伴い,どのように通勤時間を変化させるかを分析する.本研究が既存研究と異なる点は以下の二点である.第一に,既存研究では女性の仕事は都市に一様に分布し,妻の賃金は相対的に低いことを前提としている.低賃金を獲得するために長距離通勤することは合理的ではないため,妻の通勤時間は短くなる.しかし,本研究では仮に妻が男性と同じように,都心に立地する企業から高賃金を提供される場合も検討している.第二に,既存研究では与えられた家事負担が大きいことが妻の通勤時間を短くさせると述べているが,本研究では家事時間の一部は変化できると考えている.この結果,労働時間の短い妻は賃金が低い仕事を選び,通勤時間が短くなる傾向にあるが,労働時間が長く,かつ高賃金を獲得できる場合も妻の通勤時間は短くなることが示される.これは,高賃金の妻は居住地を家賃の高い職場近くに構えることができるからである.しかし,その中間の賃金の仕事を選ぶ場合は,職住が分離し,通勤時間が長くなることが示される.したがって,妻の通勤時間は,賃金の上昇に伴い最初長くなり,やがて短くなる可能性がある.1993年から2002年の「消費生活に関するパネル調査」から得られる正規雇用の妻のサンプル(N=932)を利用し,このことを実証分析したところ,上記の仮説が支持されたさらに,妻の家事時間は賃金に応じて変化せず,一日4時間程度家事をしていることが確認された.実証結果は,賃金の高い妻は,たとえ家事時間が長くても,通勤時間を短くすることで,余暇時間を確保しようとしているのに対し,中間的な賃金に直面する妻は,長時間通勤,長時間家事労働のため,余暇時間を確保できないことを示唆している.
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