2007 Fiscal Year Annual Research Report
批判理論における<承認>概念と「多元的社会」の構想理論
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19730346
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
出口 剛司 Ritsumeikan University, 産業社会学部, 准教授 (40340484)
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Keywords | 承認 / 規範 / フランクフルト学派 / 批判理論 / A.ホネット / 社会学的社会心理学 / 自己実現 / 心理主義 |
Research Abstract |
今年度はフランクフルト学派・批判理論における承認論、自由論の思想史的背景と理論的構造の解明をおこない、そこから社会批判の構造を素描することを課題として設定した。具体的にはP.リクールとならんで、現代社会哲学め領域において本格的な承認理論を展開しているフランクフルト学派第三世代A.ホネットの社会心理学的考察をとりあげ、その思想史的な背景と現実の社会批判への応用可能性について検討した。思想史的観点から見ると、ホネットの「自由」概念はジンメルからフロムに受け継がれた「消極的自由」批判の流れに定位しており、そこから現代社会における個人化批判を展開するという形をとっている。そして消極的自由のもたらす病理が、ルカーチから発展継承した「承認の物象化」というホネット固有の命題に接合されているのである。また社会批判へのポテンシャルとしては、以下のことが明らかになった。ホネットによれば、グローバル化の流れに平行して、自己責任論、心理主義の普及というかたちで「個人化」が進展するが、そこにはいわゆる資本主義的近代のパラドックスという構図が隠されている。つまり、1960年代後半から70年代にかけては、自己実現や個性の発展が個人にとって自由と解放の力として機能したが、資本主義の構造転換により、解放の契機となる個性と自由の称揚がシステム命令と化すことによって、うつ病など深刻な精神病理が生じつつあるのである。さらに本年度、フランクフルト大学社会研究所において、現所長のホネット氏へのインタビューをおとなうと同時に、最新の批判理論研究に関する資料収集を行った。
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