2008 Fiscal Year Annual Research Report
批判理論における<承認>概念と「多元的社会」の構想理論
Project/Area Number |
19730346
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
出口 剛司 Meiji University, 情報コミュニケーション学部, 准教授 (40340484)
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Keywords | 承認 / 規範 / フランクフルト学派 / 批判理論 / A. ホネット / 社会学的社会心理学 / 自己実現 / 心理主義 |
Research Abstract |
資本主義的近代化がもたらした規範的成果が、同じ近代化のプロセスによって空洞化する事態を「資本主義的近代化のパラドックス」とよんでいる。本年度は「成熟性からの解放」とならんで、現代社会におけるパラドックス現象について検討を行い、それが個人の心理にもたらす影響とメカニズムについて明らかにした。具体的には(1)制度化された個人主義、(2)法的統治形態としての平等主義の理念、(3)地位分配における業績原理、(4)ロマン主義的愛の理念という四つの近代の規範的成果が、90年代に本格化するネオ・リベラリズム的改革のなかで解放的機能を喪失し、さまざまな社会病理現象を引き起こすプロセスを解明した(その成果を学会例会において報告した)。 これら「個」の平面における承認の病理とならんで、戦後ドイツにおける特殊ユダヤ系住民に対する移民政策を事例として、制度的次元において承認規範が作動するメカニズムについて具体的に解明した(その成果を共著の形で発表した)。それによって、受け入れ諸国が移住者に対しておこなう通常の承認関係とは異なる形態が存在し、それが戦後のユダヤ系住民の地位の保証を暫定的に可能にしたことが明らかになった。 さらにフランクフルト大学社会研究所が同大学中国学と共催した「中国における批判理論受容」に関するシンポジウムに参加し、中国社会の資本主義的現実と批判理論受容に関する資料収集をおこなった。また「理論研究はいかにして現実の社会構想とかかわるか」という問題設定のもと、フランクフルト学派と学生運動とのかかわりについて検討をおこない、批判理論が逆説的にも理論的自律性を担保したことが、学生運動の位置を表示する座標軸としての役割を可能としたことを明らかにした。
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