2009 Fiscal Year Annual Research Report
批判理論における〈承認〉概念と「多元的社会」の構想理論
Project/Area Number |
19730346
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
出口 剛司 Meiji University, 情報コミュニケーション学部, 准教授 (40340484)
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Keywords | 承認 / 規範 / フランクフルト学派 / 批判理論 / A.ホネット / 社会学的社会心理学 / 自己実現 / 心理主義 |
Research Abstract |
承認概念の思想史的内実に関する詳細な検討を行い、同概念がいわゆる現代思想の主要な潮流を吸収する形で構想されていることを指摘した。それによって承認の諸次元について、愛の形式は倫理学的展開を果たしたレヴィナス・デリダの他者に対する配慮や応答責任概念、法(権利)の形式はリベラリズムの自律概念、そして連帯の形式がコミュニタリアニズムの共同体概念を批判的に吸収するなかで成立していることを明らかになった。さらにそれらの理論、概念研究を踏まえ、現代的自己に対する承認論的立場からの批判の論理を解明し、その中心に地位するホネット及び批判理論の「パラドックス」概念について詳細な検討を行った。これら二つの作業を通して、いわゆるネオリベラリズムに対する批判的分析が陥る困難、及びその克服の可能性を示すことができた。すなわち、ネオリベラリズムのイデオロギーが自由主義のもつ解放的積極的側面を吸収し、行為への強制的な動機づけへと反転させたこと、またそのことにより、批判的根拠の定立が著しく困難となること、そしてその困難を克服するために、承認における相互主観的契機を行為の原初的水準において捉える「先行承認」の概念が有効であることが明らかになった。またこれらの批判理論における承認論の検討によって、アンソニー・エリオットとの「新しい個人主義」との比較検討を行うための視座を準備することができた。また本年度は、フランクフルト大学のアクセル・ホネット教授を招聘し、承認と物象化に関するワークショップを開催し、積極的な研究交流を深めることができた。また京都で開催された国際会議にホネットに対するコメンテーターとして出席し、承認論的自己論を踏まえた規範理論(社会構想理論)に関する研究成果の報告、交換を行った。
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