2010 Fiscal Year Annual Research Report
批判理論における〈承認〉概念と「多元的社会」の構想理論
Project/Area Number |
19730346
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
出口 剛司 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 准教授 (40340484)
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Keywords | 承認 / 規範 / フランクフルト学派 / 批判理論 / A.ホネット / 社会学的社会心理学 / 自己実現 / 心理主義 |
Research Abstract |
ネオリベラリズム的資本主義の下での「自己実現の病理」の心理的メカニズムを批判的に解明するために、本年度はホルクハイマー、アドルノ、フロム、ホネットを中心とした、批判理論における精神分析受容史の再検討を中心に行った。とくに理論面では、1990年代以降の資本主義の構造転換との関連で自己実現の病理を把握するために、現代日本における心理学主義、心理主義に関する先行研究を踏まえつつ、ホネットによる対人関係論的アプローチにもとづく社会心理学的社会批判の発展的再構成を行った。受容史の面では、第一世代の精神分析受容の特徴を明らかにし、その有効性が1930年代から80年代に限定され、90年代以降の社会批判(「自己実現の病理」に対する批判)においては、精神分析の対象関係論的展開が必要である点を明らかにした。心理学主義、心理主義に関する日本の社会学的研究は、自己実現の病理を生み出す社会背景を明確にしたものの、「抑圧の病理」から「自己実現の病理」に至る歴史的転換や、これら二つの病理を生み出す心理的メカニズムの解明には至っていない。こうした課題に対して本研究は、精神分析受容と学説の理論史的再構成という方法をとることによって、自己実現の病理に至る資本主義の構造転換、その下での病理の心理的メカニズムを解明することが可能となった。さらにこうした理論、理論史の再構成作業と並び、ケアという自律的な相互行為が失効する場面において、主体自身や主体と主体との相互関係がどのような形をとりうるか、先行する実証研究を参照しつつ検討し、承認概念が近代的自律的主体に代わる自己や社会の構想に向かう視座を切り開く可能性を有している点を明らかにした。
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